渓谷に、ぽつりぽつりと桃色の花がほころぶと、温泉郷も春の気配。これは栃木県の花でもあるヤシオツツジで、温泉街の中心を流れる箒ほうき川沿いや、明賀屋本館のある鹿股かのまた川沿いなど、あちこちで春の訪れを告げてくれる。以降、桜、ぼたんと続き、渓谷の木々も夏へ向けて、日ごとに輝きを増してゆく。

　「これからの季節は、露天での湯あみが格別です」と話すのは、湯守の君島敏明さんだ。創業は江戸期にさかのぼる明賀屋本館。君島さんは17代目当主にあたる。

　宿の代名詞ともいえるその風呂は、深い谷の底にあった。清冽な川の流れを目の前に、どっしりと構える「川岸露天風呂」。日常とは隔絶された場所に設けられたその風呂は、まるで“隠し湯”のよう。注がれるのは、塩分と鉄分を含む黄褐色の源泉と、さらりとしてやわらかな薄墨色の源泉。個性の違う2つの源泉のブレンド具合も心地よくて、至福の湯あみ時間が過ぎてゆく。

　気持ちのいい湯を楽しんだら、温泉街を歩いてみよう。箒川沿いには大小さまざまな滝や吊り橋があり、ハイキングコースも充実。森林浴と水辺のマイナスイオンで、体が整う気分だ。