温泉は、大地が生み出す自然の恵み。それゆえ季節や天候などの状況によって、色や温度、湧出量などが変化することも珍しくない。ここ元泉館の場合、湯船に注がれた湯の色やにごり具合が変わる神秘性で、温泉ファンの注目を集めている。

　「普段は緑白色や乳白色のことが多いのですが、まれに墨のように黒くなることもありますし、湯底が透けて見えるほど透明になることもあります」と、日々湯を見守っている湯守の君島弘晃さんが教えてくれた。最近ではこうした変化がお客様にも知られるようになり、湯船によって、季節によって、さらには天候によって表情を変える神秘の湯を楽しんでいるのだとか。

　宿があるのは、にぎやかな塩原温泉郷の中心から奥に入った赤川の渓流沿い。秋が深まれば露天風呂から望む紅葉も楽しみだが、「冬の雪見風呂を目当てに来られるお客様も増えています」と君島さん。しんしんと降る雪は辺りを無音にするかのようで、湯の注がれる音だけが耳に届く。冷えた体に、熱い湯がまっすぐに染みわたる感じもこの季節ならでは。心地よい温もりの中、自然の静寂をひとり占めするような時を楽しみたい。