江戸時代初期には、20数軒の宿があったといわれる野沢温泉。豊富な湯量と質の良い源泉は地元の人々によって大切に守り継がれ、北信州を代表する名湯となった。外湯（共同浴場）が多いのも特徴で、そのすべてが天然温泉かけ流し。生まれたままの無垢な湯で、旅人をもてなしてくれるのがありがたい。

　大正時代の創業から110年以上を数える奈良屋旅館もまた、自然湧出の自家源泉をそのまま湯船へとかけ流す。内湯の扉を開ければ、ふわりと漂う檜ひのきの香りと湯の香り。やや熱めながらさらりとやさしい湯心地で、湯守の池田明子さんが丹精込めて整えていることが実感できるのだ。内湯でしっかり温まったら露天へ。高原から吹き下ろす風にほてった体がリセットされて、再び湯あみに興じることができる。

　標高1650mの毛無山の裾野に広がる野沢温泉。冬はスキーと雪見風呂を目当てに訪れる客が多いというが、実は秋にも楽しみがある。スキー場の長坂ゴンドラリフト（別料金）は秋シーズンも運行。紅葉の時季には錦繍に染まる毛無山をゴンドラから望むことができ、天気がよければ遠く温泉街の向こうに北信五岳の山並みも。秋と冬、自然の彩りは対照的だが、どちらを訪れても最良の温泉旅になるはずだ。