蔵王エコーラインは蔵王連峰を横断する山岳道路。火口湖・御釜方面へと車を走らせる途中、分かれ道を下りていくと三角屋根が連なる峩々温泉が見えてくる。標高約850mの山の一軒宿だ。

　一歩足を踏み入れれば、パチパチと燃える薪ストーブの温もり。天然木の床が心地よい談話室には、窓外の自然を眺められるよう椅子やハンモックが置かれ、山の別荘のようなくつろぎに満ちている。商店どころか、ほかの宿すら周りにはない。「何もないからこそ、過ごせる時間がここにはあります」と湯守の竹内宏之さん。ゆったりと流れる“蔵王時間”に体内時計を合わせて、いざ名湯を堪能しよう。

　古くから「日本三大胃腸病の名湯」として名高い峩々温泉。面白いのは“湯船に浸からない”入浴法があることだ。大浴場で行う「かけ湯」は、かつて湯治客らが生み出した。腹部にくり返し熱い湯をかけることで体内がじんわりと温まり、胃腸が元気を取り戻す。大浴場には浸かるのにちょうどいい温度の湯船もあり、ほかに男女別露天や貸切露天、混浴露天（冬季閉鎖）も。どの湯船にも竹内さんが心を込めて整えた、やわらかで良質な温泉がかけ流されている。これが本当に気持ちがいい。

　山の別荘にこもるような感覚で、ゆっくりと滞在を楽しめる峩々温泉。深い雪に埋もれる厳冬期、静寂のなか連泊で湯に興じるのもぜいたくな過ごし方だ。