八幡平の山懐で、蒸ノ湯温泉はおよそ400年前から湧いている。この歴史ある湯の湯守は温泉を守るだけでなく、周囲の山々に目を配るのも仕事のうちなのだとか。昭和2年に植物学者の牧野富太郎が八幡平を訪れた際には、蒸ノ湯の15代当主で、旧宮川村の村長だった阿部藤助が八幡平の山中を案内した。「当館に泊まった際、山の幸の味わいに感動されて、“これを山菜と呼ぼう”と牧野先生がおっしゃったと聞いております」と女将で17代湯守の阿部恭子さんは話す。今も宿の名物は山菜料理。女将が腕をふるう夕食「蒸ノ湯式薬膳」で、滋味豊かな山の幸を堪能したい。

　蒸ノ湯のもう一つの名物が、もくもくと蒸気が上がる岩場に点在する開放感満点の野天風呂。特に混浴の野天風呂は「枡風呂」「樽風呂」「岩風呂」と趣向を凝らした湯船が並び、宿を象徴する風呂だ。かけ流される湯は湯の花をたっぷり含み、まったりとした肌ざわり。湯に身を沈めれば、湯底にもトロリとした感触の湯の花が積もっている。館内にある風呂も気持ちがいい。ヒバ造りの内風呂に浸かったり、併設の露天風呂から野天風呂エリアを一望したり。山間で楽しむ極上の湯めぐりに、身も心もほどけていくだろう。