トップメッセージ
経営・業務に対する基本スタンス
「これからのために今を変えていく」―入社時から今も変わらぬ使命感
私は、1989年、JR東日本発足以降で初めての事務系総合職として入社しました。研修終了後最初に配属されたのが、今回、撮影の舞台とした上野駅です。当時、上野駅は、新幹線をはじめ、東北や上信越方面への特急や夜行列車の始終着駅として多くのお客さまのご利用があり、非常に賑わっていました。私は、この上野駅で改札と出札(みどりの窓口)の仕事に従事しました。私の「鉄道人」としての原点は、ここ上野駅にあります。
JR東日本は、私が入社する2年前の1987年、経営破綻した国鉄の分割民営化により誕生しました。国鉄改革と言われていますが、いち利用者として見た国鉄は、毎年春には利用者を無視したストライキをするし、トイレなどの駅設備やサービスは劣悪で、非常に酷い組織という印象でした。それが分割民営化により、文字通り一夜にして大きく変わった、そしてさらに大きく変わろうとしていました。私の入社動機は、必ずしも明るい未来が展望できていたわけではありませんが、大組織が大きく変わろうとしている創業の気運に自分自身のキャリアを重ね合わせ、新しい会社を創っていく広大無辺のチャレンジに自分も携わってみたいということにありました。
上野駅で従事した改札や出札の仕事は、もちろん大切な仕事とは思いつつも、このようなアナログな世界を変えていかなければ、鉄道に未来はないという思いを日々強くしていました。また、駅構内はお客さまで溢れていましたが、ご利用できるのはKIOSKと軽食店舗くらい。活用の視点を変えたら、もっと多様なビジネスチャンスがあるのではないか、という考えも当時から持っていました。実際、Suicaが改札を抜本的に変えましたし、エキナカビジネスは上野駅から始まりました。
これまで私は、「これからのために今を変えていく」という入社時に抱いたWillを大切にし、「我々がやらねば」という強い思いで日々の業務や経営に携わってきました。不透明感が増す厳しい経営環境の中、事業全般にわたる構造改革を加速させているJR東日本グループは、私にとって第2の創業期にあると言えます。そうした時に社長としてその先頭に立っていることに、不思議な縁を感じています。
「変革2027」の振り返り
「すべての社員が主役」という意識改革がグループ全体へ着実に浸透
2018年にスタートしたグループ経営ビジョン「変革2027」は、当時、経営企画部長であった私が実務責任者として策定しました。「変革」という名が示すとおり、安全を経営のトッププライオリティーとして堅持しながら、事業全般にわたる構造改革を断行しなければ私たちの未来はない、という強い思いを込めたグループ経営ビジョンです。その意味において、当社グループにとって初めてとなる10年という中長期の時間軸を置きました。
「変革2027」がスタートしてからの7年間、さまざまな大きな変化がありました。その中でも私が最も大きな変化の手応えを感じているものが、グループ社員の意識と行動の顕著な変化です。「変革2027」が初めて掲げた、JR東日本グループのすべての社員が新しい時代構築の「主役」であるというキーフレーズを、グループ社員一人ひとりがしっかり受け止めてくれました。そして職場や地域、会社間の壁を越えた「融合と連携」により、活躍のステージを拡大するさまざまなチャレンジを繰り広げてくれました。コロナ禍の中でも決して委縮することなく、むしろ不断のチャレンジにより職場を変え、グループを強くしていったことが、ポストコロナにおいて業績を急回復させたエネルギーになったと思います。こうしたグループ社員のチャレンジは、今も歩みを止めていません。
一方で、経営のトッププライオリティーに位置づける安全においては、一昨年来、お客さまに多大なご迷惑ご不安をおかけする事故、事象を発生させてしまいました。またこの1年、グループガバナンスの在り方が大きく問われる不正行為や不祥事が起こっています。私は、大きな反省と厳しい教訓を、「変革2027」が達成した成果とともに、新しいグループ経営ビジョン「勇翔2034」に繋げていく決意です。
グループ経営ビジョン「勇翔2034」でめざすもの

安全を経営のトッププライオリティーとして堅持し、
果敢なチャレンジで成長をステージアップする
JR東日本グループは、2025年7月1日、新たなグループ経営ビジョン「勇翔2034」を始動させました。「勇翔」は私自身が名付けた造語で、ここには、社会・経営環境が大きく変わろうとしている今こそ、失敗を恐れず、勇気をもって翔び立つときであるという強い決意を込めました。
「勇翔2034」においても、次の3点は「変革2027」から変えずに継承しています。1点目は、「究極の安全」の追求がグループ経営のトッププライオリティーであるということです。ただ、新しいグループ理念においては、「安全」を「安心」に置き換えました。これは、この間の大きな反省点や教訓を踏まえ、私たちのサービスや商品のご利用者であるお客さまの視点から「安全」を捉え直したことによるものであり、「安全」について、自らにこれまで以上に高く厳しいハードルを課したことを意味しています。2点目は、グループで働くすべての社員が「勇翔2034」の目標達成に向けた「主役」であるということです。そして3点目は、技術によるイノベーションを通じて安全やサービスレベルを高めるとともに、業務を変革していく「技術サービス企業グループ」をめざしていくということです。
そのうえで「勇翔2034」では、「主役」であるグループ社員の新しいチャレンジにより、これまでの「当たり前」を超え、鉄道を中心としたモビリティと生活ソリューションの二軸で支える強靭な経営構造の構築をめざしています。私たちがチャレンジする価値創造のフィールドとして、これまでの「都市」「地方」「世界」に、新たに「宇宙」を加えたのも、またフュージョンエネルギー(核融合発電)の開発と利活用を新たな取組み課題として掲げたのも、この「当たり前」を超えるということの一環に他なりません。
そして、鉄道を中心としたモビリティと生活ソリューションのそれぞれを強化していくとともに、TAKANAWA GATEWAY CITY開発に象徴されるように、この二軸を持つJR東日本グループだからこそできる強みをビジネス化することで、「変革2027」が描いていた成長軌道をさらに大きくステージアップしていきます。
「勇翔2034」の数値目標及びキャッシュ・アロケーション
2034年度営業収益5兆円に向けた成長軌道を描いていく
「変革2027」が描いた成長軌道をさらに大きくステージアップさせるため、「勇翔2034」では、長期的な経営目標であるKGIとして、2031年度のROE(自己資本当期純利益率)を10%以上にすることを目標にしました。そのために、ROA(総資産営業利益率)5%以上を目標に、資産を有効活用するとともに、成長のベースとなる収益力の向上を図ります。営業収益は、2031年度に4兆円超、そして最終年度である2034年度には5兆円をめざします。鉄道を中心としたモビリティでは2,000億円超の増収、生活ソリューションでは、既存事業の強化に加え、「成長のエンジン」と位置付けた不動産事業の加速や戦略的M&Aなどを推進することにより、グループ全体で、2031年度に4兆円超の目標は十分に達成できると考えています。
また、2031年度までのキャッシュ・アロケーションでは、各ビジネスの利益成長による営業キャッシュ・フローの拡大に加え、アセットマネジメントとして不動産販売の規模拡大により創出される8,500億円や政策保有株式の3割以上縮減による500億円を組み合わせることで、キャッシュインの最大化を図ります。獲得したキャッシュは、成長資金や基盤維持・強化資金、革新的なイノベーションのために新設したLX資金と株主還元の充実に振り向けていきます。株主還元は、「変革2027」の総還元性向40%・配当性向30%という方針から、配当性向を40%に引き上げ、柔軟に自己株式取得を実施することとしました。これは、グループの中長期の成長のため、今、ビジネスチャンスを逸することのないよう、特に生活ソリューションの成長資金にキャッシュを重点的に振り向ける中で、株主還元も充実していくという考えによるものです。結果として収益が向上することにより、現金配当のボリュームは大きくなっていきます。また、LX資金は、社員がワクワクしながら果敢にチャレンジすることを後押しするための資金となります。
「勇翔2034」実現に向けた社員への期待
「変革2027」で培ったチャレンジ精神のステージアップ/
「勇翔2034」推進の両輪となる組織の再編と人事・賃金制度の抜本的改正
2025年5月、「勇翔2034」推進の両輪となる組織の再編と人事・賃金制度の抜本的改正を発表しました。これは、これまで「当たり前」となっていた国鉄由来の制度を乗り越え、新しい時代にふさわしい制度とするものです。
組織については、これまでの第一線の職場、本部・支社、本社の3層体制から、本部・支社を廃止し、お客さま第一線で日々のオペレーションを担う36の事業本部とグループ全体の戦略構築及び事業本部の活動のサポートを担う本社の2層体制に、業務運営体制を再編します。事業本部は、お客さまや地域の皆さまのご利用状況やそれぞれの地域の持つ特性や課題などを踏まえて組織化した、エリア経営の基本的単位となります。事業本部体制に移行することにより、今まで以上にきめ細かくかつスピーディーに地域のご意見やご要望にお応えすることができるようになります。本部・支社が担っていた権限や役割を事業本部に移管することにより、社員にとっても自らの発意を起点とした活躍のステージが拡大することになり、ますます成長と働きがいを実感できるようになることを期待しています。
また人事・賃金制度については、社員一人ひとりの果敢なチャレンジとそれを通じた成長や成果をしっかりと受け止め、賃金に個別具体的な評価ができるようにします。特に減点主義の要素をなくし、たとえチャレンジが失敗しても、それを通じた成長が見られれば積極的に評価するように改め、新たな組織風土の醸成に繋げていきます。
さらに、現在、JR東日本グループでは契約社員を合わせて約10万人の社員が、日々の業務に従事しています。今後、イノベーションの進展によって、例えば駅業務はAI機器に置き換わり、乗務業務ではワンマン化やドライバレス運転が進んでいくでしょう。しかし、イノベーションは、こうした効率化や生産性向上だけでなく、グループ内に新しい事業領域や活躍のフィールドを創出していきます。私は、ただ要員の合理化だけを経営のミッションとは考えていません。新たな価値を創出するのは、あくまでもヒトだからです。
「勇翔2034」実現に向けた二軸経営の戦略
Suicaを「生活のデバイス」へと進化させることで
二軸経営のシナジーを創出するビジネス基盤としていく

グループの成長の基盤となるのが、進化するSuicaです。2024年12月、今後10年以内に実現していくSuicaの進化を「Suica Renaissance」として発表しました。要約すれば、Suicaを「移動と少額決済のデバイス」から、お客さまの生活と幅広く繋がる「生活のデバイス」に進化させるということです。
現在、発行枚数1億枚を超え、そのうちモバイルタイプが3,500万台を超えるなど、Suicaはお客さまのご利用に着実に浸透してきましたが、3つの課題があります。改札の通過にタッチが必要であること、電子マネーの利用上限額が2万円であること、そして事前チャージが必要なことです。これをウォークスルー改札の実現、2026年秋に予定しているモバイルSuicaへのコード決済の導入、お客さまの銀行口座やクレジットカードへの紐づけ、によりそれぞれ乗り超える計画です。さらにその先には、きっぷのクラウド化により、例えば駅ビルで一定額以上のご利用のあったお客さまに帰りの普通列車グリーン券を差し上げるといった鉄道利用とSC事業を連携した新しいサービス、鉄道と生活ソリューションを融合した新しいサブスク商品やマイナンバーカードとの連携による地域ニーズを反映した「ご当地Suica」などを実現していきます。例えば住宅事業では、改札の通過情報により帰宅時間に合わせた電気機器の稼働、生活データを活用した医療や最適な睡眠・食事のリコメンドなど、これまでにない幅広いサービスが可能となります。またSuicaに蓄積される膨大なデータは、新たなビジネス創出のための当社グループ独自のマーケティング資源となります。さらに、チケットレスの進展により駅に新たなビジネスチャンスとなる収益空間が生み出されます。
一方、鉄道を中心としたモビリティについては、東京圏の人口のピークアウトが想定よりも延びていることやインバウンドが急増していることは、当社グループの大きな強みとなります。例えば、2025年3月、中央線にお客さまの着席ニーズにお応えしてグリーン車を導入しました。これにより年間80億円の増収を見込んでいます。また6月には、2028年度を目途に当社武蔵野線と西武池袋線を直通運転する計画を発表しました。このように、当社の鉄道には、お客さまの潜在的なニーズを掘り起こしたり、既存設備を活用した新しいネットワークを構築することなどにより、今後も成長する可能性は大いにあります。さらに、2031年度には、東京駅を経由して羽田空港まで直通する羽田空港アクセス線(仮称)の開業を予定しています。これにより空港アクセスが飛躍的に向上することはもとより、東京圏のバリューアップによりホテルや商業施設などの生活ソリューションにも大きなメリットを創出できると考えています。
生活ソリューションについては、Suicaの進化による既存事業の強化に加え、不動産事業を大きな「成長のエンジン」と位置付けています。そのうち不動産ファンド事業については、自社用地から開発用地を生み出せる当社グループの強いパイプラインにより、2027年度までに4,000億円としてきた資産運用規模の目標を、「勇翔2034」では2031年度に1兆円にまでスケールアップしました。さらに、当社グループならではの鉄道ネットワーク型まちづくりJ-TOD(JR East-Transit Oriented Development)モデルを構築し、国内各地に展開していきます。そしてこのJ-TODモデルにより、将来、東南アジアや南アジアのまちづくりへの参画も視野に入れています。
「四方良し」によるステークホルダーとの好循環
公益性の高い企業グループとしてどのような形で利益を上げていくか、
自らに問うていく
「『四方良し』の経営」というのは、私が社長就任時にグループ全体に向けて送ったメッセージの中にある言葉です。
企業である以上、利益を上げなければ、安全やサービス向上などのための投資はもちろん、社員の労働条件の改善もできません。しかし、昨今、ESG経営をベースに、SDGsの達成をめざす流れが重要視され、どのような形で利益を上げるかが、ますます重要になってきていると思います。
鉄道はもとより、お客さまや地域の皆さまの生活と幅広い接点を持つ当社グループの事業は、元来、公益性の高いものです。「『四方良し』の経営」というのは、当社グループの事業の持つ公益性を強く意識し、事業活動の目的を、より良い世の中を創ることに置く。そしてこうした事業活動によって得た利益を、お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さま、加えて忘れてはならないことはグループ社員とその家族の幸福実現のために還元するとともに、グループの次の成長のために振り向ける。この4つの方向性をバランスよく組み立てた経営を推進する。さらに、私たちの事業活動によって、人口減少や少子高齢化、地方の産業や雇用、エネルギーなどさまざまな社会課題の解決に貢献していく、そうした志高い企業グループになるということです。この「『四方良し』の経営」は、私の中ではいささかも変わるものではありません。
株主や投資家の皆さまには、資本コストをしっかり意識した経営を行うことで「収益性の向上」と「資産の有効活用」を推進していきます。そして、その中で株主還元の充実と成長投資を両立させることにより、中長期にわたってそのご期待に応えていきたいと考えています。
グループガバナンスについて
一連の不正行為や不祥事・不適切事象が相次いで発生した必然性を究明し
グループガバナンスの改善と強化に結びつけていく

おおよそこの一年、JR東日本グループの事業活動の基盤である「信頼」を毀損する不正行為や不祥事、不適切事象がいくつも明るみになりました。経営として厳しく受け止めなければならない重大事態と捉えています。
鉄道事業では、2024年9月、当社及びグループ会社において、車両の輪軸組立作業の過程で輪軸の圧入力値の不適切な取扱い、さらには改ざんが行われていたことが判明しました。また生活ソリューションでは、グループ会社において、中央省庁からの受託事業の中で人件費を水増し請求するという不正行為が行われていたことが判明しました。それぞれの事案には個別の原因や背景事情はあるものの、不正行為や不祥事・不適切事象を相次いで発生させてしまったことについては、何らかの必然性があるものと考えなければなりません。
「勇翔2034」を始動させるにあたり、グループガバナンスの在り方を改めて検証し、立て直すことは経営の急務となっています。そのために、私たちの自助努力・自浄作用に加えて、「勇翔2034」を発表した同日の7月1日、当社グループのコンプライアンス・ガバナンスの在り方等についての検証・提言を目的とした、社外有識者3名を含む委員会を立ち上げました。同委員会においては、グループの内部統制の仕組みや運営の実態などを検証し、2025年末までにグループガバナンスの改善と強化のための報告書を作成することになります。当社グループとしては、この報告書の提言を踏まえた具体的な改善・強化策を2025年度内に策定し、実行に移す考えです。この具体的な改善・強化策については、まとまり次第、ステークホルダーの皆さまにも説明させていただきます。
2024年度の振り返り
新しい時代の構築に向けての攻勢に転ずる中で具体的成果を創出
2024年度決算は、グループ全体で増収増益、営業収益は4期連続の増収、また全セグメントで増収増益となるなど、好調な業績を挙げることができました。特に鉄道運輸収入は、「変革2027」で掲げていた2027年度計画にも近似するレベルまで達しました。
2024年4月1日に私が社長に就任した時、グループ内に向けて特に強調して送ったメッセージは、先の「『四方良し』の経営」とともに、日本経済がポストコロナの新しいステージに移行した中で、JR東日本グループの経営モードもコロナ禍の守勢から本格攻勢に大きく転じようということでした。
こうした観点から2024年度を振り返ると、それまで検討を進めてきた施策等が具体的な形で実現するとともに、新たな中長期施策を明らかにできた1年であったと言えるでしょう。具体化したものでは、安全とサービスはグループ全体の課題であることを組織的にも示すため、それまで鉄道事業本部内にあった安全企画部とサービス品質改革部を、グループ全体を統括する独立した部へと位置付けを変えました。また「グループ安全計画2028」をスタートさせました。鉄道事業では、中央線でのグリーン車の営業開始、南武線や常磐線において初の長編成でのワンマン運転を導入しました。生活ソリューションでは、TAKANAWA GATEWAY CITYのまちびらきに加え、不動産事業における回転型ビジネスを加速させるために新会社を設立しました。また新たに明らかにした中長期施策としては、「Suica Renaissance」や、新幹線の自動運転を2029年から上越新幹線において着手することの発表などが挙げられます。
このように2024年度は、鉄道の安全にかかわる事故・事象やグループガバナンスにおいて厳しく反省しなければならない事案を発生させてしまった一方で、大きな施策の実現や発表を行うことができたという意味では、グループ経営のモードを本格攻勢に転じることができた1年と総括できるのではないかと考えます。
2025年度の経営展望など
これからの10年の大きな飛躍に向けて「勇翔2034」を力強く始動させる
2025年度の業績予想では、グループ営業収益を過去最高の3兆230億円としました。また、鉄道運輸収入事業では、「変革2027」で公表した2027年度の計画値を超える見込みです。
まず鉄道事業では、2026年3月に、会社発足以来、消費税転嫁やバリアフリー加算を除き、実質的に初めて運賃を改定します。この運賃改定により運賃に関わる課題が解消されたわけではなく、引き続き運賃の柔軟化に向けた検討と国との協議に取り組んでいきます。また当面の課題として、新幹線自由席特急料金の認可制から届出制への変更の実現をめざしていきます。さらに2025年9月には、鉄道を中心としたモビリティの中長期成長戦略「PRIDE & INTEGRITY」を明らかにしました。
生活ソリューションでは、TAKANAWA GATEWAY CITYの2026年春グランドオープンに向けた準備を推進します。また、3ヘクタールに及ぶ大井町社宅跡地で進めているまちづくり「OIMACHI TRACKS」が、2026年3月にまちびらきをします。この2つのまちびらきにより、浜松町から品川を経て大井町に至る、年間収益規模1,000億円を超える「広域品川圏」が完成することとなります。
技術イノベーションでは、「Suica Renaissance」において、ウォークスルー改札の第1弾として、新幹線で初めて上越新幹線の長岡駅と新潟駅で顔認証改札の実証実験を行います。また、生成AIの利活用を加速させることで鉄道事業の業務変革を推進していきます。
また、「勇翔2034」を踏まえ、グループ全体を視野に入れた新しいサービス基本計画を明らかにします。
さらに「勇翔2034」推進の両輪となる組織の再編と人事・賃金制度の抜本的改正について、それぞれ2026年7月と4月の確実な実現に向けた諸準備を調えていきます。
当社グループのコンプライアンス・ガバナンスの在り方等については、検証・提言を目的とした委員会の提言を受け、グループガバナンスの改善・強化策を2025年度内に策定し、これをグループを挙げて実行していきます。
このように2025年度は、収益力を大きく向上させて、過去最高の営業収益目標3兆230億円を確実に達成するとともに、これから10年の大きな飛躍に向けた基盤を構築し、「勇翔2034」を力強く始動させていく1年にしていく決意です。
トップとしてのミッション
当社グループの歴史に大きな区切りを打ち
グループの真価を発揮していくためグループのカルチャーを変える
私の入社動機は、創業期にあったJR東日本の組織としての魅力と可能性、そして国鉄から真の民間会社に変わるためのさまざまなチャレンジに自分も参画したいという思いにありました。そして入社直後から、今のままでは未来はない、このままではいけない、小さなことでも自分たちから行動を起こそうという強い信念と決意を持ち続けてきました。もちろん大きな組織の一員ですが、組織の「歯車」になるのなら、尖ったギザギザの多い歯車になりたいと心掛けてきました。噛み合わない場面も多々ありましたが、そうした強い信念、チャレンジ精神、そして行動力は、今も入社時といささかも変わることなく、常に私を突き動かす原動力になっています。
時あたかも、2024年4月1日までに、国鉄改革以来、JR東日本グループを担ってきた国鉄採用の先輩方の大半が定年退職を迎えていました。まさにJR採用世代がJR東日本グループの中核を担うこととなったその日に、私はJR採用世代として初めての社長に就任しました。その時、私の胸中に「当社グループの歴史に大きな区切りを打ち、新しい時代を構築するための役割をしっかり果たすことが自分のミッションである」という強い確信が生まれたのです。
そうした私の決意を凝縮する形で「勇翔2034」を策定しました。鉄道事業をはじめ、お客さまや地域の皆さまの生活と幅広い接点を持つJR東日本グループにとって、成長をステージアップするためにチャレンジできるフロンティアは国内外に無限に拡がっています。「勇翔2034」の実現は、決して平坦なミッションではありませんが、「勇翔2034」の実現なくしては、JR東日本グループの未来への展望は開かれないという強い信念で、私はグループの先頭に立つ決意です。
ステークホルダーの皆さまにおかれましては、これからも変わることないご理解とご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。そしてJR東日本グループがこれから更なる高みをめざして勇ましく翔び立つが如く躍動し、成長・発展を遂げていく姿にどうぞご期待ください。
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長
喜㔟 陽一