甲州印伝
山梨県甲府市
鹿革と漆が織りなす日本の美
漆と鹿革の質感。
吉祥模様をあしらったステーショナリーボックス
客室の一角に配された文具などを収納するステーショナリーボックス。艶やかな漆塗りの上蓋には美しい印伝模様が施され、見る角度によってさまざまな光彩を放つ。印伝は江戸中期、甲斐の国(現在の山梨県)で独自に考案された技法だ。柔らかな黒地の鹿革を木地に貼りつけて、その表面に黒の漆を塗り込み、最後に細かな模様を施す。小桜、青海波(せいがいは)、蜻蛉など、その模様の数は300にもおよぶという。
「TRAIN SUITE 四季島」のステーショナリーボックスには吉祥・万徳の印である卍字くずしの模様「紗綾形(さやがた)」が配列され、なんとも縁起がよい。職人たちがひとつひとつ約半年をかけて製作したという特別なボックス。特別な旅の友として、存分に愛で、活用したい。
鹿革に漆を施す。独自の技法を今に受け継ぐ
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印伝とは「印度(インド)からの伝来」の意で、鹿革に模様を施す革工芸。日本では奈良時代の文庫箱にその始まりが確認されている。その後は戦国武将たちの兜や鎧を煌びやかに飾る技法として、そして江戸時代には巾着などに施され、洒落者たちに愛されてきた。
甲州印伝は、江戸の初め、甲斐の地で革工芸を営んでいた遠祖印傳屋(INDEN-YA)当主の上原勇七が、鹿革に漆で模様を施す独自の技法を創案したことに端を発する。その後、燻(ふす)べ、漆付、更紗(さらさ)という門外不出の印伝の技が代々継承されてきた。人肌に馴染む鹿革という柔らかな天然素材に施された、さまざまな日本のかたち。日本の貴重な革工芸の担い手として、甲州の地で唯一無二のものづくりを続ける。