「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い
Vol.732026/5/20
川越唐桟の優しい木綿の肌触りと江戸の粋を、
お客さまのくつろぎのために。
そしてこの度、その部屋着が従来の浴衣スタイルから、セパレートのパジャマスタイルにリニューアルされた。「TRAIN SUITE 四季島」らしく、グリーンとベージュ、ゴールドで構成されたオリジナルの縦縞模様は、粋でスタイリッシュだ。
仕立てを担当した川越の老舗、呉服笠間店主・笠間美寛と、生地制作を担ったマルナカ社長・中里明宏が、その制作への想いを語った。
幕末に川越商人が売り出した、絹のような肌触りの木綿の織物
- 笠間:
幕末・明治期から川越で商われてきた、柔らかで艶感のある綿織物が川越唐桟です。手触りがよくて丈夫、縦縞模様が特徴の先染め織物で、幕末に、横浜に来航したイギリスの貿易船によってインドやエジプト産の細い綿糸がもたらされるようになりました。これに目をつけた川越の商人たちが、近隣の埼玉の織物産地に綿糸を持っていき、織物にしてもらったのが始まりで、江戸で売り出したところ、江戸っ子たちに大人気となったという歴史が伝わっています。
私どもの店は、もともと埼玉の小川町で呉服店を営んでいましたが、明治43(1910)年に川越に出店しました。以前は絹織物を中心に扱っていましたが、現在は地元の川越唐桟を中心に展開し、私で四代目になります。 
- 中里:
笠間さんのお話にもありましたが、埼玉県西部の飯能、入間、狭山、川越あたりは古くからの織物づくりの歴史がありました。
荒川水系と多摩川水系の狭間に位置するこの地域は、糸や布地の染色に欠かせない豊かな水に恵まれ、織物製造が発展する条件が整っていたのです。
マルナカは、埼玉県飯能市で明治初期に創業し、私で五代目です。戦後の三代目からは和から洋の服地に転じ、現在はアパレルメーカーやデザイナーの方々との取り組みが中心になっています。 
老舗呉服店と織物工場の技術とのコラボレーション
中里さんと私が「TRAIN SUITE 四季島」の部屋着づくりを担当することになったのは、2017年の運行開始当時のことでした。車内のインテリアや備品には東日本の伝統工芸品を用いるということで、部屋着には川越唐桟をというお話をいただいたのです。
ただその頃、生地をお願いしていた織物工場が廃業してしまい、「TRAIN SUITE 四季島」のお話をいただいた時は、新たな提携先を探す必要がありました。
正直まったくあてがなく、困り果てて川越工業高校の先生に織物工場のリストをつくっていただき、一軒一軒に電話して訪問し、辿りついたマルナカさんにやっていただけることになったのです。
初めてお訪ねしたのが春頃でして、その年の秋の川越まつりの日に、採用決定の電話をいただきました。川越まつりは、町をあげての年に一度の大イベント。その日のうちに、私からマルナカさんに、「採用が決定しました。織りを進めてください!」という電話を差し上げ、まつりの後、すぐに工場に駆けつけたことは、今も印象深く憶えています。
今回、浴衣から上下セパレートのパジャマスタイルの部屋着にすることになり、生地もリニューアルすることになりました。川越唐桟は、染色した綿糸で織る先染め織物なので、まずは糸作りから始めました。
グリーン、ベージュ、ゴールドなど、「TRAIN SUITE 四季島」らしい色で先染めした糸を用い、色の組み合わせや縦縞の幅などを変えて何種類も試織(ししょく)しました。しかし糸の時と織り上がった状態とでは色調が異なりますし、縞の配色や太さによってもイメージが大きく違ってきます。試行錯誤を重ねた結果、最終的に細めの縦縞が採用されました。
笠間:
デザインは、ゆったりとしたラグラン袖で、襟の形や開き具合にこだわり、縁はシャンパンゴールド色の布でパイピングしています。パンツもゆったりさせ、ウエストは内側から紐で調整できるなど細部に工夫を凝らしました。また畳んだ時にコンパクトになりかさばらないことや、リネン工場でのクリーニング、プレス作業に対応してもらえるかなど、試行錯誤の繰り返しになりました。
実は、われわれは今まで呉服一筋で、今回、洋服仕立てのものを手掛けるのが初めてでした。和服の場合は反物を平面裁断したものを縫い合わせていきますが、洋服にはもっと幅広の布地が必要になってきます。その点マルナカさんに見事に対応していただけたので、大変助かりました。
工場では、お客さまの要望に対応していけるように、最新のドイツ製の織機を導入しています。そのため、さまざまな素材、幅の布地を織ることが可能となっております。
笠間:
幅広になると、布の真ん中がどうしても歪んでしまうことがあるのですが、マルナカさんの技術では、端と真ん中でテンションが一切異なることもなく、縮みもありません。
ゆったりとした気分で、くつろいでいただきたい
浴衣も、今回のパジャマも、出来上がった時には心底ホッとするものがありましたね。
笠間:
川越唐桟は、柔らかな肌触りでありながら、丈夫で劣化しにくい生地です。運行開始から10年近く用いられてきた浴衣の生地も風合いはほとんど変わりませんでしたから、新しいパジャマも長く心地よさを保ってくれると思います。
中里:
「TRAIN SUITE 四季島」という特別な旅の体験に寄り添う、この布地を共につくり上げ、支えさせていただけたことは、私たちにとって大変貴重な経験となりました。
笠間:
実は川越唐桟は、大正期には衰退し、長らく途絶えていた織物でした。昭和50年代に川越の人たちによって復活し、その技術がこれまで大切に継承されてきた歴史があります。江戸っ子たちを惹きつけた、その魅力をこれからも広く伝えていければと考えています。
なによりお客さまには、お休みになる時、この粋なパジャマで、ゆったりとくつろいでいただきたいですね。