トップメッセージ

2024年9月

代表取締役社長
喜㔟 陽一

「安全」を経営のトッププライオリティに位置付け、「究極の安全」を追求することで培ったステークホルダーの皆さまからの信頼を基盤に、ESG経営による社会課題の解決とお客さま・地域の皆さまの心の豊かさを増進する新たな価値創造をめざしてまいります。

社長就任にあたって

グループの事業全体を見渡せるポジションを長く務めたことで身に付けた知見や視座を強みに、新しいJR東日本グループを創っていきます。

私は、2024年4月1日付でJR東日本の代表取締役社長に就任しました。JR発足後に採用された社員としては初の社長就任となります。1989年に事務系採用として入社、上野駅、新宿駅など鉄道の現場で勤務し、その後は人事関係業務を長く経験しました。また、経営企画や投資計画にも携わり、現在のグループ経営ビジョン「変革2027」を策定する際には、経営企画部長として関わりました。直近ではマーケティング本部長に就き、生活ソリューションの成長戦略の策定と実行を担当してきました。経営企画あるいは人事といった、グループの事業全体を見渡せるポジションに長くいたことで身に付けた知見や、中長期的な経営環境の変化を踏まえてビジネスを見るという視座は、今後、社長として経営の舵取りをしていくうえで強みとなるものと考えています。また、マーケティング本部長として、幅広くお客さまの日々の生活と接点を持つ生活ソリューションの事業に携わり、新たなチャレンジにより生活サービスやIT・Suicaサービスを大きく伸ばそうと取り組んだことは、Suica経済圏を構築するための知見や視座をつくるのに役立っていると思います。

経営に対する基本的な考え方として、グループの「すべての成長基盤は社員である」ということと、「健全経営」を着実に進めていかなければならないという想いを強く持っています。

私は、JR東日本グループの成長の原動力は「社員」であると考えています。人事の仕事を長く続けてきた中で、常に社員の働きがいと成長を考えてきました。社員の成長がグループ全体の発展にいかに結び付いていくかということを目の当たりにしてきたことによる想いです。グループ社員一人ひとりが主役です。事業活動を通して社会課題を解決し続ける企業グループを社員と一緒に創りたいと考えています。そのためには、社員が活躍できるしくみや組織づくり、フィールドや仕事づくりを実行することが必要です。社員と経営の新たなエンゲージメントを創出していくことが、社長としての私の大きな役割だと心得ています。また、国鉄改革を経て発足した会社として、そこから受け継いできた「安全第一」「自主自立」「お客さま第一」をしっかり守らなければならない、これは脈々と受け継がれてきたDNAであり、私自身の血となり肉となっています。

JR東日本グループの価値創造

お客さま・地域の皆さまからの信頼を基盤に、「ヒト起点」での幅広い事業を展開し、「すべての人の心豊かな生活を実現していきます。

JR東日本グループの存在意義とは、マクロ的に見れば、日本の経済活動を支えているインフラを有しているということです。また、ミクロ的に見れば、お客さま・地域の皆さまの日々の生活を支えているということです。グループ経営ビジョン「変革2027」において、私たちの事業を展開する重要なステージとして、「都市を快適に」「世界を舞台に」と並んで、「地方を豊かに」を掲げています。東京など都市圏の利便性をさらに高めバリューを向上することはもちろん重要な課題ですが、元気な地方コミュニティが国内各地にあって、それぞれを私たちの輸送をはじめとした重層的なネットワークで結び付けていくことが、私たちの成長の基盤になります。その意味で、地方の問題にしっかりと向き合うことができる企業グループであることも私たちの存在価値だと思います。今後はDXをさらに加速させ、お客さまとのさまざまな接点をさらに拡大していくことが私たちに求められていることであり、成長のマイルストーンとなっていくと確信しています。

私たちは、鉄道事業者として「安全」を経営のトッププライオリティに置いています。「究極の安全」を追求していくことで培ったお客さま・地域の皆さまからの信頼を基盤に、さまざまな価値を提供していくことも大きなミッションです。「信頼」「社員」そして「ネットワーク」の3つを強みとして、私たちは日々の業務に邁進していきます。

鉄道で培った「信頼」、どのような企業にも負けることのない、お客さま・地域の皆さまをはじめとするステークホルダーの皆さまからの「信頼」を基盤に、「鉄道インフラ起点」ではなく「ヒト起点」で、輸送、生活サービス、IT・Suicaの事業間、グループ企業間、地方自治体や社外の企業との間など、さまざまなフェーズでの「融合と連携」をさらに深化させ幅広い事業を展開していきます。そして、グループの総合力を発揮することで、「すべての人の心豊かな生活」の実現に向けて事業を展開し、それをグループの成長に結び付けていきます。

また、「変革2027」ではグループで働くすべての社員を構造改革の「主役」と位置付けています。「人的資本経営」という狭い枠にはめることなく、社員一人ひとりの成長をグループ全体の成長に重ね合わせていくためには、社員が外に向かって開かれたマインドを持つことが重要だと考えています。「内なるグローバル化」により、社員が持つ高いポテンシャルをさまざまなビジネス展開の中で発揮できるようにしていきたいと思います。

そして「ネットワーク」は、人の移動だけではなく、物の移動、情報の移動などを含み、重層的に形成されるものです。人口減少・少子高齢化という社会の構造変化の只中にあって、こうしたリアルで重層的なネットワークに、日々進化するデジタルを掛け合わせることにより、エキナカなどこれまで強みとしてきたJR東日本グループのリアルなアセットをビジネスの強みとして再構築していくこと、これは私自身のミッションであると考えています。

2023年度業績の振り返り

「変革2027」の実現に向けてグループ一体で取り組んだ結果、グループ全体で増収増益、営業収益は3期連続の増収を達成しました。

ここで、2023年度の業績を振り返ります。当年度は、「ポストコロナ」と「インバウンド」をキーワードに、平日限定のおトクな商品「旅せよ平日!JR東日本たびキュン♥早割パス」をはじめとするさまざまな需要喚起策に加え、インバウンド施策のさらなる拡充や、訪日外国人旅行者向け鉄道パスの価格改定など、お客さまの流動促進と収益の拡大に取り組みました。また、(株)JR東日本スマートロジスティクスの設立、不動産事業の戦略的展開など、生活ソリューションにつながる事業の拡大によるビジネスポートフォリオ変革に向けた施策を展開しました。このように、「変革2027」の実現に向けてグループ社員一丸となって取り組んだ結果、鉄道の利用増やエキナカ店舗、ホテル、ショッピングセンターの売上増により、グループ全体で増収増益、営業収益は3期連続の増収を達成することができました。セグメント別では、運輸事業、流通・サービス事業、その他は増収増益となり、不動産・ホテル事業は増収減益でしたが、不動産販売事業を除いたベースでは増収増益となりました。

ビジョン達成に向けた成長戦略

順調な鉄道事業の進捗に加え、「JRE BANK」の営業開始に伴う金融事業、「TAKANAWA GATEWAY CITY」を中核とする不動産事業が着実に進捗しています。

代表取締役社長 喜㔟陽一 画像

「変革2027」を策定した2018年当時から、既に人口減少によるマーケットの変化と少子高齢化等の人口構造の変化、そして人手不足の時代の到来は、経営環境の変化として織り込んでいました。さらに、お客さまのライフスタイルの変化など、さまざまな経営構造の変化を見通して、10年間という長期スパンで策定したビジョンです。イラストで描いたこれまでの延長線上でない世界を、「変革の主役」であるグループ社員の新たなチャレンジにより実現していこうという構想です。

鉄道事業においては、10年間の前半で、CBM(状態基準保全)やドローンを活用したスマートメンテナンス、鉄道のワンマン化などを着実に進めた結果、筋肉質な事業構造ができ上がりつつあると実感しています。また、仕込んできたいくつかのプロジェクトが、10年間の後半で花開きます。2025年春の中央快速線へのグリーン車導入は、860億円の投資に対して年間80億円の収益を見込んでいます。2023年度までに青森、岩手、秋田、山形へ拡大してきたSuicaご利用エリアも、2024年度末に長野県内でさらなる拡大を予定しており、着実に利便性を向上させています。加えて、2023年6月に着工した羽田空港アクセス線(仮称)は2031年度に開業の予定です。自動運転なども、順次、実現していく計画です。

Suica・金融ビジネスでは、2024年5月に「JRE BANK」が営業を開始し、えきねっとやモバイルSuicaなどの各種サービスのID統合も2027年度までに完了する計画です。鉄道のきっぷのクラウド化も2027年度末をめざして進めており、Suicaアプリ(仮称)によるこれらのサービスの統合も2028年度に実現する見通しです。

今後の成長の大きなエンジンとなる不動産事業においては、含み益を収益化していくため、JR東日本不動産投資顧問(株)に続き、2024年7月にはJR東日本不動産(株)を立ち上げ、さらに回転型ビジネスの拡大を図っており、2027年度には全体として4,000億円を超える規模のファンドビジネスに育成していく考えです。

もう一つ、すべての事業に共通する重要な取組みとして、さまざまな企業やアカデミアとの包括的な連携を進めてきました。「変革2027」においてオープンイノベーションの推進を掲げており、「自前主義」から踏み出して、これからは社会の進んだ知見やノウハウ、技術を積極的に取り込んでいくため、数々の包括的な連携協定を結んできました。スタートアッププログラム採択企業の成果報告会であるDEMO DAYも10回目を迎え、さまざまなスタートアップ企業との協業も進んでいます。

そして、私たちが取り組む新たなサービスや価値創造のシンボリックな実例がTAKANAWA GATEWAY CITY」です。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」として、多くの企業やアカデミアと提携しています。具体的には、東京大学が学際的な「東京大学ゲートウェイキャンパス」を開設するほか、シンガポール国立大学とも提携、さらに感染症などの研究で世界的に権威のあるフランスの民間研究機関パスツール研究所と連携するなど、多様な知との掛け合わせにより、ここを新たなビジネス価値創造の拠点としていく計画です。ここから生まれるさまざまなアイデアを社会実装した成果を日本や世界各地に発信し、それがまたフィードバックされるという循環を生み出す街を実現していきたいと考えています。極めてエキサイティングな街になると思います。2025年3月に高輪ゲートウェイ駅前のツインタワー「THE LINKPILLAR 1」が開業し、2025年度中には「THE LINKPILLAR 2」やレジデンスなどが竣工する、非常に手応えのあるまちづくりが進んでいます。全体で6,000億円の投資に対し、年間で570億円の収益を見込んでいます。車両基地だった場所から約13ヘクタールの開発用地を生み出し、そのうち約10ヘクタールを開発する「TAKANAWA GATEWAY CITY」プロジェクトは、私たちにとって象徴的な意味合いを持っています。これまで、グループのアセットを十分にマネタイズできていなかったという反省があるからです。例えば「Beyond Stations構想」は、もっと駅の空間を活用することでさまざまな収益価値を創造していくというコンセプトです。既に地方の産業のマッチング拠点やオンライン併用のクリニックなど、物販や飲食に限らない「暮らしのプラットフォーム」となるビジネスの展開を始めています。このようにグループのアセットから新たに価値を創造し、最大限マネタイズしていくことは、グループの成長にとって大きな挑戦でありますが、私は達成できると確信しています。

これまで述べてきた施策を着実に進めることで、「変革2027」の数値目標の達成をめざします。ROAを4.0%程度とする目標や、ネット有利子負債/EBITDA倍率を中期的に5倍程度、長期的には3.5倍程度にする目標をしっかりと見据えて、グループ全体で力強く進んでいきます。

中長期視点に基づいた取組み

経営環境の変化を、構造改革を進め成長に転換していくチャンスと捉え、モビリティと生活ソリューションの二軸の経営体制で、新しい価値の創造に挑戦していきます。

私たちは、かつて経験したことのない社会環境の変容に直面しています。人口減少や少子高齢化、それに伴う人手不足に加え、人材の流動化も加速しています。さらに、社会の価値観やライフスタイルの変化、生成AIなどの技術革新、そして地球規模の気候変動など、社会環境は加速度的に変化しています。このような経営環境の激変を、大きく構造改革を進め、成長に転換していくチャンスであると私は捉えています。少子高齢化ということであれば、新たにシニアマーケットを創造できるといった発想でマーケットインのビジネスを創ることができます。私たちのめざしているモビリティと生活ソリューションの二軸で成長をめざす体制は、まさに経営の構造改革と呼べるものです。

政府は訪日外国人旅行者数の目標として、2030年に6,000万人と掲げています。インバウンドのお客さまは、JR東日本グループの成長を支える大きな要素であることは間違いありません。この流れも含め、国内市場において、輸送、生活サービス、IT・Suicaの3つのサービスを融合し、「ヒト起点」の新しい利便性や価値の創造に挑戦していくことこそが、当社グループの成長ドライバーと考えています。新型コロナウイルス感染症によって、モビリティ一軸に偏った経営体制の脆弱性が明らかになりましたので、生活ソリューションというもう一つの経営軸を拡大し、モビリティと生活ソリューションの二軸の経営構造が当社グループのサステナブルな成長に必要であると考えています。

中長期的な視点に立って、今後も「安全」を経営のトッププライオリティとして、「究極の安全」を追求することには変わりはありません。「安全」こそが、絶対揺るがせてはいけない私たちの不変の使命です。安全の取組みに終わりはなく、日々の仕事の中で、常に安全レベルを高めていくこと、これが「究極の安全」という言葉に込めた意味であり、間違いなく国鉄時代から現在も脈々と受け継がれているDNAです。これを基盤として、モビリティと生活ソリューションの二軸の経営を早期に確立していかなければなりません。そのために、当社グループが展開するさまざまなビジネスの「融合と連携」をさらに進めつつ、サステナブルな成長をめざしていきます。

これまで私たちの事業は、専ら駅をご利用になるお客さまを対象としたサービスを展開してきました。これには、エキナカ、ショッピングセンター、オフィスなども含まれます。これらのサービスに磨きをかける一方、今後は鉄道のお客さまに限らずエキソトにもビジネスの視野を拡大し、幅広いお客さまを対象としたビジネスを加速する必要があります。私は、「駅に当たり前のようにお客さまが集まる」ことを前提としたビジネスモデルの再構築を進めていかなければならないと考えています。

モビリティは、さまざまな先進的な技術や知見を積極的に導入するだけでなく、これまでの技術的蓄積から新たなビジネスを創出することによって、時代の先端を行く技術サービス事業に成長させていきます。私たちが築き上げてきた「信頼」というブランドを根底で支えているのは、安全で安定した輸送システムです。引き続きDXを推進し、人でなくてもできる業務は機械やシステムに置き換えていくことによって、生産性の高い事業として収益力の強化に努めます。さらに、鉄道事業はグループにとってもリアルなタッチポイントを持つという点で非常に大きな意味を持っており、他の企業にはないグループ全体の成長に寄与する競争力をつくるベースになると考えています。モビリティは安定と成長により、サステナブルな事業運営を行っていきます。

また、生活ソリューションは中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」でお示ししたように、新たなビジネス戦略により利益拡大をめざしていきます。未来を見据え、顧客データなどの情報を踏まえたマーケットインの事業戦略によって既存ビジネスの成長力をさらに高めるとともに、「移動の目的(地)づくり」「DXによる個客接点の強化」を柱として、新たな強みをリデザインしていきます。Suicaの進化によってデジタルのプラットフォームを立ち上げ、グループで展開しているさまざまな事業を「JRE POINT」をハブにして結び付けていくことによって「Suica経済圏」を創造することなどに経営資源を集中的に投下し、今後10年で利益倍増をめざしていきます。

2024年度の取組み

経営のモードをコロナ禍の守勢から攻めに転ずる年。輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスの強みを活かした「融合と連携」によりシナジーを発揮し、これまでにない新たな価値創造をめざしています。

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2024年度は、ポストコロナの経済が本格稼働し、社内では国鉄採用世代が定年退職を迎え、世代交代する大きな節目の年となります。現在の社会経済の大きな変容を、これまで事業全般にわたって取り組んできた構造改革をさらに加速させる好機と捉え、新たな成長戦略を描き果敢に推進することで、新しい時代を切り拓いていく年としたいと考えています。2024年度から連結キャッシュ・フロー経営に向けた新たなマネジメントのしくみとして、4つのセグメント・14のビジネス、成長の基盤となる人材、DX・知的財産、財務・投資、ESGのそれぞれに対して戦略とKPIを定めました。これに基づいて、グループ社員が「融合と連携」により価値創造に取り組み、キャッシュ・フロー(経済価値)の最大化をめざすとともに、事業活動を通じた社会的な課題の解決(社会的価値)に貢献します。

2024年度の具体的な施策として、モビリティにおいては、引き続きワンマン運転の拡大やDXによるメンテナンス業務の効率化などを推進するほか、インバウンドを含めたお客さまの観光流動を創造、中央快速線グリーン車導入や羽田空港アクセス線(仮称)に向けた成長投資も進めていきます。また、2024年4月には収入原価算定要領が一部改正されましたので、これに基づき収入・原価を精査し、条件を満たせば、速やかに国土交通省へ運賃改定の認可申請を行いたいと考えています。10月からはオフピーク定期券の値下げによりさらなる普及を図ります。

ローカル線についても、継続して地域との対話を進めます。輸送密度1日4,000人未満の路線の割合は、会社発足時は在来線全体の約3割でしたが、人口減少や自動車利用のシフトが続き、2022年度時点で約5割に達しています。地方交通線については、今後、人口減少等により、ますます経営環境が厳しくなると想定されます。大勢のお客さまを安全かつ安定的な輸送サービスで目的地までお運びするという鉄道の特性を発揮できない状況で、今後どのようにサステナブルな形で地域の足を維持するかは、極めて重要な課題と認識しています。当社グループとしては、設備のスリム化、運行形態の簡素化等による運営の効率化を進める一方で、沿線の皆さまにもご理解、ご協力をいただきながら、地域と一緒に「持続可能な交通体系のあり方」を検討していく考えです。さらに、持続可能な交通体系の構築とともに、観光や生活サービス、SuicaやMaaSなどさまざまな事業で地域と向き合うことも重要です。何度でも訪れていただくために観光素材を磨き上げ、そのエリアのファンづくりにより、地域の関係人口を増やすとともに、農業や漁業、地域ならではの地産品販売など、地域のあらゆる産業振興にも取り組んでいます。高速輸送ネットワークを活用した列車荷物輸送「はこビュン」により、地域の産業を首都圏のマーケットに結び付けるなど、さまざまな産業と連携した地域づくりを担っています。今後もグループ全体で地域の課題に向き合っていきます。

生活ソリューションにおいては、私たちの今後の成長を生み出す事業として、不動産ビジネスに注力していきます。開発の推進による収益不動産の拡大や既存ショッピングセンター等の運営力の強化を図るとともに、ファンド事業を通じた回転型ビジネスによる資金効率や利回りの向上に取り組みます。新たな開発について、2024年度は、新業態のショップなど28店を揃える新宿駅エキナカ「EATo LUMINE」や、ホテル・商業に加え、地域医療の提供とともに医療ツーリズムの拠点をめざしたJR青森駅東口ビル、約140店のリーシングが進んだCoCoLo新潟などが開業しました。また、リテールビジネスにおいては、コインロッカーの機能を物流の一端に位置付ける「マルチエキューブ」の設置拡大や、JRE MALLの収益拡大、「はこビュン」の事業化に向けた取組みなどを着実に進め、さらなる収益力向上を図っていきます。

MaaSの推進も重要です。当社グループが提供する鉄道ネットワークと地域の公共交通とを組み合わせてご利用いただくことで、多くのお客さま流動を創造することができます。これらの交通ネットワークを最適に組み合わせて利用を促進し、お客さまの心豊かな生活を支援するしくみとして、MaaSを加速させていきます。そのために、各自治体や交通・観光分野をはじめとするさまざまな事業者とのアライアンスを推進し、DXの活用を通じて、移動のみならずお客さまのあらゆる生活シーンにおいて体験価値を高めていきます。

成長の基盤となる重要課題への取組み

ESG経営は、私たちの経営の中核的な視座です。さまざまな社会的課題を私たちの強みである「信頼」「社員」「ネットワーク」をベースに価値を生み出して、サステナブルな社会を築いていきます。

社会にはさまざまな課題があり、私たちは事業を通して、この社会課題を解決していくために力を注がなければなりません。民間企業として「稼ぐ」ことを前提としながらも、「どのようにして稼ぐか」が問われていると思います。ESG経営は、私たちの経営の中核的な視座です。私たちには、一つひとつの事業の特性を踏まえた社会的責任を果たしていくことが求められています。ますます複雑化、高度化する社会課題に対して、私たちの強みである「信頼」「社員」と「ネットワーク」をベースにさまざまな価値を生み出して、サステナブルな社会を築いていくことが、JR東日本グループの存在意義につながると考えています。

具体的には、人類全体の地球的な課題である脱炭素社会、そして循環型社会の実現への取組みを加速します。鉄道は、環境優位性の高い交通手段である一方、運行には大量のエネルギーを消費する需要家でもあります。環境にやさしい移動へのニーズの高まりもあり、より選ばれる移動手段となれるよう、積極的に取り組んでいきます。私たちは、2020年に発表した環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」において、2030年度までに2013年度比でCO2排出量を50%削減し、2050年度までに「実質ゼロ」を達成することを掲げました。さらに、SBT(Science Based Targets)の認定取得に向けたコミットメントレターを2023年8月に提出しました。パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガスの科学的根拠に基づいた排出削減目標です。鉄道の環境優位性の源泉は、単位輸送量当たりの極めて高い省エネルギー性です。鉄道へのモーダルシフトが特に有効な都市圏や都市間輸送においては、たとえ他の交通モードのゼロエミッション化が進んだとしても、単位輸送量当たりのCO2排出や消費エネルギーが最も少ないという鉄道の環境優位性は揺るがないものと考えています。

社会面においては、地域やお客さまとの結び付きを強め、伴走型地域づくり、地域・観光型MaaS、ローカルスタートアップなどによる地方創生を推進します。また、人権を尊重した事業活動も強化し、人権基本方針、カスタマーハラスメント方針に基づく活動とともに、サステナブル調達も推進していきます。とりわけ、社員エンゲージメント向上に向けて、トップダウンの発信と社員からのさまざまな発信やチャレンジが、経営というステージで融合するしくみをつくります。一人ひとりが経営への参画意識を持って活躍できる、新しい経営と社員との関係を創造していきます。これによって、グループ社員の成長期待に応え、確固たるエンゲージメントを構築することができると考えています。企業が事業環境の変化に対応しながら持続的に企業価値を高めていくためには、事業ポートフォリオの変化を見据えた人材ポートフォリオの構築が必要です。加えて、イノベーションや付加価値を生み出す人材の確保・育成や組織の構築など、経営戦略とそれに適合する人材戦略が重要です。これは、当社グループにおいては人事施策に柔軟性を持たせることです。社員のさまざまなチャレンジに応えられる柔軟な人事制度、二軸経営にふさわしい人事体系をつくらなければなりません。社員が海外含め多様な事業フィールドの中で活躍できる育成体系を整備していきます。

グループ社員とのコミュニケーションを活性化する取組みも進めていきたいと考えています。チャレンジを始めた若手社員と本社役員が対話する「ブレイクスルー・コミュニケーション」をはじめ、社員と直接会話する機会をつくるため、折々に職場を訪問しています。私の発するメッセージは、常にグループ全員に向けています。制度の新設や研修講座の設置、健康経営の推進などはグループ全体を視野に入れたものとなっています。私がグループ全体をしっかり視野に入れている、というメッセージを常に送り続けています。

コーポレート・ガバナンス及び内部統制は、私たちが成長していくうえでの非常に重要な視座であると認識しています。内部統制は、単にリスクがあるから止めるということではなく、把握したリスクをいかにコントロールしながらグループの発展に結び付けていくか、私たち独自の取組みを進めます。「コーポレートガバナンス・ガイドライン」を定めて、透明、公正及び迅速果断な意思決定を図っており、お客さま・地域の皆さま、株主・投資家の皆さま、お取引先やグループ社員をはじめ、ステークホルダーの皆さまとの適切な協働に努め、事業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に取り組んでいきます。

また、当社は、2023年6月に監査等委員会設置会社へ移行しました。この体制により、重要な業務執行の決定権限を取締役会から取締役へ委任し、意思決定・業務執行の迅速化を図りました。さらに、取締役会の監督機能の強化などにより、ガバナンスのさらなる充実を図るとともに、グループの発展につながる「攻め」と「守り」のリスクマネジメントを遂行していく考えです。

これまで、激変する環境に柔軟に対応し、働きがいの向上や経営体質の強化を実現するため、仕事と組織の見直しを進めてきました。社員の活躍のステージを広げることによって、社員の成長、働きがいをグループの成長に重ね合わせていこうという経営方針に基づいたものです。大きな経営課題につながる日々の課題は、お客さま・地域の皆さまに一番近いところで発生します。役割や権限を移譲し、お客さまに一番近いところにいる社員が自分たちの仕事として日々の課題解決に取り組んでいけるよう、組織再編を実施しました。これにより、社員がお客さまに近い場所で創意を発揮し、自己の成長と新たな価値創造により一層挑戦していくものと期待しています。

「四方良し」の経営

着実な成長を遂げていくことにより、すべてのステークホルダーの皆さまに笑顔あふれる心豊かな生活をご提供します。

私たちは、株主や投資家の皆さまに当社グループの事業をより一層ご理解いただくための建設的な対話の場を設けています。長期的な信頼関係を構築することで、事業の持続的な成長かつ中長期的な成長をめざしています。そして、常に適時適切な情報開示を前提とし、さまざまなご期待やご要望、あるいはご批判も含め、しっかりと受け止めて、建設的に議論していくことで、国内外のさまざまな株主や投資家の皆さまとコミュニケーションを深めていきたいと考えています。事業活動によってより良い世の中をつくることを通じて利益成長を遂げること、そこで得られた利益をお客さま・地域の皆さま、株主・投資家の皆さま、そして忘れてはいけないのはグループで働くすべての社員や家族の幸福のために還元していかなければなりません。もちろん、企業としては成長していく必要があり、次なる成長へ、その利益を振り向けていきます。これを「四方良しの経営」と呼んでいるのですが、この4つをしっかりと視野に入れながらバランスよく経営を遂行していきます。さらに言えば、さまざまな社会課題、例えば環境問題、地域活性化、少子高齢化などに対して、私たちの事業活動を通じて何かできることがあるのではないかと常に考え、貢献ができる、そういう志の高い企業グループを社員と一緒につくっていきたいという強い想いを持っています。着実な成長を遂げていくことにより、すべてのステークホルダーの皆さまに笑顔あふれる心豊かな生活をご提供していきたいと思います。引き続き、私たちの活動にご理解をいただき、これからのJR東日本グループにご期待ください。

東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長
喜㔟 陽一