胃がんの症状・治療について
胃がんとは
胃は腹部にある袋状の臓器で、食道と十二指腸の間にあります。日本は胃がんの発生数が多いとされ、わが国のがん死亡者数のうち2番目に多いのが胃がんです(2012年人口動態統計による)。
胃がん発生については、ヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌)の持続感染、喫煙、食生活(高塩分食、低繊維質)などの生活習慣がリスクになりうるとされています。
中でもピロリ菌は日本人の中高年層の感染率が非常に高く、一番のリスクと考えられています。ただし、感染した人の全てが胃がんになるわけではありません。ピロリ菌の持続感染のある人でも、胃がんの発生率は年に約1%前後と考えられています。
現在、ピロリ除菌療法が胃がん発生のリスクを低くするという研究結果に基づき、感染が分かれば除菌療法の推奨と、胃の定期検診を勧められることになります。
それ以外にも冒頭に挙げたリスク因子にも注意が必要です。禁煙する、高塩分食品のとり過ぎに注意する、野菜・果物が不足しない食生活を心がけるなどの配慮が重要となります。
胃がんの症状
胃がんは初期の段階で自覚症状が出ることは、まれです。胃がんが進行した場合の代表的な症状は、みぞおち周辺の痛み・不快感・違和感、胸焼け、吐き気、食欲不振などが挙げられます。出血を伴う場合は黒色の便が出たり、吐血したりすることもあります。しかし、かなり胃がんが進行しても症状が見られないこともあります。これは胃がん特有の症状ではなく、胃炎や胃潰瘍、あるいは胃以外の疾患の場合でも起こりえます。
胃がんの進行度
胃がんの進行度は、原発巣と呼ばれる胃がんそのものの深さとリンパ節の転移の有無、他臓器への転移の有無で評価されます。例えば、大きな原発巣でも浅い病変で転移がなければ進行度はステージⅠですし、原発巣が小さくても他臓器へ転移が認められればステージⅣとなります。
胃がんの治療
胃がんの治療は大きく分けて内視鏡治療、手術療法、化学療法があります。治療の選択は進行度により判断しますが、基本的には他臓器に転移のない場合(ステージⅠ~Ⅲ)は内視鏡治療もしくは手術療法が選択されます。他臓器に転移をきたしている場合(ステージⅣ)は抗がん剤を用いた化学療法が選択されます。
内視鏡治療
内視鏡治療はステージⅠのうち、がんが粘膜内にとどまることが予想され、かつ大きさが2cm以内で分化型という比較的進行が遅い種類のがんについて行うのが原則です。最近は治療のガイドラインが見直され、5cmを超えるような大きいもの、粘膜のやや深いところ(粘膜下層)に浸潤したものも対象としています。比較的進行の早い低分化型、未分化型と呼ばれる種類の胃がんについても、小さなものでは内視鏡治療をおこなうことが検討されています。
内視鏡治療は病変とその周囲の組織だけを切除しますので、胃はすべて温存されます。手術後は1週間程度入院が必要ですが、退院後は通常の食事摂取が可能です。
外科手術
外科手術においては、リンパ節転移のない早期胃がんに対しては、腹腔鏡(ふくくうきょう)補助下幽門側胃切除を行います。リンパ節転移のある症例や、進行がんに対しては、開腹下の胃切除術を行います。また、腫瘍を含めた胃の切除に加えて、転移する可能性のあるリンパ節を切除するリンパ節郭清を行っています。腫瘍の場所と進行度により術式が異なります。胃切除には、胃の出口側を切除する幽門側胃切除術と、胃の入り口側を切除する噴門側胃切除術、胃をすべて切除する胃全摘術などがあります。胃を切除する範囲は、腫瘍からの距離だけでなく、郭清すべきリンパ節の範囲なども考慮に入れて切除するため、幽門側胃切除術では3分の2以上の胃切除が必要となります。
ただし、術前の検査でリンパ節転移のない早期がんの場合、一部のリンパ節郭清を省略することができるため、噴門側胃切除を行ったり、腹腔鏡補助下の胃切除を行ったりします。
腹腔鏡補助下の手術は、お腹に5カ所の小さな穴をあけて二酸化炭素を入れて膨らませ、小さな穴からビデオカメラを入れてお腹の中を観察します。残りの穴からは、さまざまな器具を入れて手術を進めます。胃を栄養する血管を剥離して切離し、リンパ節を郭清します。郭清操作が終わったところで、上腹部を小切開して胃を引き出し、胃を切除します。開腹した傷から、胃と腸をつなぎ合わせる吻合(ふんごう)操作を行います。腹腔鏡手術の利点は、手術による傷が小さく手術後の痛みが少ないことです。さらに、手術後の回復が早く、入院期間の短縮にもつながります。当院では早期胃がんの患者さまに対して、積極的に腹腔鏡補助下の胃切除術を導入してきました。
化学療法
化学療法は内視鏡治療や外科手術ができない場合に選択されます。胃以外の臓器に腫瘍が直接浸潤している場合や他の臓器に転移がある場合、他の臓器の機能が低下していて手術に耐えられない場合などが相当します。
化学療法には内服薬(ティーエスワン®)と注射薬(シスプラチン、イリノテカン、ドセタキセルなど)を、単剤または複数組み合わせて使用します。また、がん細胞にHER2というたんぱく質が認められる場合は、ハーセプチン®という薬剤が効果のある場合もあります。ただし、これらの薬はすべての患者さまに効果があるわけではありません。、治療の効果を見ながら、適宜薬剤の変更を行いつつ治療をしていきます。
当院の治療成績
- 2014年内視鏡治療
- 内視鏡的粘膜下層剥離術…32例
- 2014年外科手術
- 胃全摘…14例
- 幽門側胃切除…25例(腹腔鏡補助下手術…10例)