疾患

母指CM関節症

母指CM関節

母指(親指)のつけ根に痛みが続く場合、母指CM関節症の疑いがあります。
母指には3つ関節がありますが、そのうち一番体に近い関節が母指CM関節で、広く言うと手首の関節の一部です。
手指の関節は膝と同じように変形性関節症(軟骨の摩耗や反応性の骨増殖を伴う病気)が生じやすい部位です。
母指CM関節症は母指CM関節に生じる変形性関節症です。最近、東大で行われた大規模な調査(ROADスタディ)では40歳以上の人にX線検査をすると、右手では33%、左手では40%に母指CM関節症が生じていることが判明しており、非常に多い病気といえます。
母指は物をつまんだり、握る際に非常に大事で、様々な方向に動く特徴があります。その分、負荷がかかりやすく軟骨の摩耗・変性が生じると考えられます。
症状は痛みや力の低下のほか、進行すると関節が亜脱臼し、こぶのように骨が突出したり母指がジグザグに変形してきます。

診断

痛みの部位を確認しX線検査で診断をします。

治療法

  • 装具治療

    疼痛の緩和に有効です。特に、まだ発症から経過が短い方は試してみることをおすすめします。まず、2か月は夜寝る時も含めしっかり装着します。装具治療で十分な効果が得られない場合には手術も考慮します。

  • ステロイド注射

    関節に炎症があり腫れているような場合には有効です。効果が長続きせず注射を繰り返さないといけないような場合には手術も考慮します。

  • 手術

    様々な手術法があります。現在、当院で主に行っている手術は関節形成術で、症例によって関節固定術も行っています。

    ①関節形成術:
    関節を形成する大菱形骨を一部または全部を削り骨同士がぶつからないようにします。自分の体の腱(長掌筋腱など)を採り、それを利用して骨切除後の間隙にクッションとして挿入したり、関節を安定させるための靭帯を再建します。当院のプロトコールでは手術後3週間ギプス固定します。力を入れるような動作は術後2か月を過ぎてから行います。痛みの改善は9割以上の方で期待でき、動きには制限が生じません。ただし、痛みの緩和にはある程度の時間(月単位)が必要です。

    ②関節固定術:
    強い変形を矯正したい場合、より確実に強い力を出したい場合などに検討します。関節面の骨を削りプレート・スクリューなどで関節をしっかりと固定します。骨が癒合しやすくするため骨盤などから採った自分の骨の移植を併用することもあります。母指CM関節に対する関節固定術は標準的な手術法の一つです。ただし、母指CM関節の動きは全くなくなるため、関節形成術に比べ動きの制限が生じること、骨が癒合しない場合(偽関節)があること、隣接する関節の状態によっては対象にならない場合があることなどを検討しておく必要があります。

手根管症候群

手がしびれる原因としてまず考えておきたい病気が手根管症候群です。
手のひらの根元にある手根管と呼ばれるトンネルがあり、正中神経と指の屈筋腱が通っています。正中神経は手の感覚や運動に重要な神経の一つです。
手根管で正中神経が圧迫されると、母指(親指)から環指(薬指)の半分まで特に指先に痛みやしびれが生じます。小指は別の神経(尺骨神経)に支配されているため小指には症状はでません。痛みは明け方に感じやすい特徴があります。進行すると物をつまむ動作に重要な母指球(母指のつけねにある膨らみ)にある筋力が低下し、最終的には萎縮が生じます。
細かな診察と補助検査により手根管症候群を診断しますが、頚椎の変形がある場合などでは頚椎由来のしびれと考えられて診断が遅れる場合もあります。

神経伝導速度検査

手根管症候群が疑われる際に行われる補助検査の一つです。神経には電気が伝わる性質があります。神経が圧迫を受けると神経に電気が伝わるスピードが遅くなります。また神経線維のダメージが進むと伝わる電気の大きさ(振幅)が減少します。神経伝導速度検査では皮膚の表面につけた電極から電気を流し神経での電気の伝わり方から障害の部位や特徴を調べる検査です。

治療

  • 安静

    軽症例では自然軽快も期待できます。まずは2か月程度手首を安静にすることが必要です。自転車や車のハンドルを持つような姿勢は手根管の圧迫を強めるため避けます。またフライパンをふったり、重いものを持つようなことも避けていただきます。

  • ステロイド注射

    手根管内にステロイドを注射します。ステロイドは炎症を抑えたり、硬く厚くなった手根管の屋根にあたる靭帯を柔らかくすることにより神経の圧迫を改善します。一旦症状が改善しても再発を繰り返す場合には最終的に手術が必要になることが多いと思われます。

  • 手術
    手根管症候群の手術イメージ

    しびれや痛みが強く、持続し生活に支障がある場合、筋力が低下してきた場合には手術を検討します。

    ①手根管開放術:
    手根管の屋根にあたる横手根靭帯(屈筋支帯)を切離して正中神経の圧迫を解除します。
    手根管開放術にはある程度の長さの皮膚を切開し神経を直視下に観察しながら神経の圧迫を解除する方法と1-2cmの小さな切開で内視鏡を利用して同じように神経の圧迫を解除する方法があります。最終的にはどちらも同様の結果が得られます。ただし内視鏡で十分な視野が得られない場合などで稀に神経自体を損傷するリスクがあります。
    当院では小さめの切開で直視と内視鏡を併用して安全に手術を行っています。局所麻酔で20分程度の手術です。通常、日帰り手術として行っています。 手術前にあった痛みは比較的早期に改善します。しびれや筋力の改善には月単位の経過をみる必要があります。

    ②対立再建術:
    重症例で母指球の萎縮が強い場合、手根管開放術だけでは母指対立の筋力が回復しにくくなります。その場合には対立再建という手術が行われます。皮膚の切開はある程度大きくなります。手根管の開放に加えて、腱移行という方法を用いて麻痺した短母指外転筋の代用となる筋肉・腱を移し替えて作る方法です。当院では対立再建を行う場合には数日入院していただきます。手術後3週程度ギプス固定も行います。

デュプイトラン病

デュプイトラン病

200年前の著名なフランス人外科医Dupuytrenの名前がついている病気です。はじめは手のひらにしこりが生じ、進行すると皮膚の下のつっぱり(病的腱膜)が指まで広がってきて指が伸ばせなくなります。一方で指を曲げる動きは制限されません。
別名バイキング病ともいわれるように北欧系の白人に多いことが知られていますが、日本人でも中高年の7%にみられ、決して珍しくはありません。男性に多く、環指や小指に生じやすい病気です。特に糖尿病の方ではリスクが高くなります。
痛みは通常はありません。ただし、ばね指という腱鞘炎を合併することがしばしばあり、その際には痛みがあります。
手のひらにしこりがあるだけであれば治療を急ぐことはありませんが、指が曲がってくると拍手ができない、顔を洗う時に指がつっかかる、ポケットに手を入れる際にひっかかるなど不便が生じてきます。
診断は主に触診で行われますが、関節自体の障害の有無を確認するためX線検査なども行うことがあります。
治療のタイミングはどの関節が伸びないかによっても変わります。パターンとして、指の根元のMP関節が曲がってくる場合、指の中央のPIP関節が曲がってくる場合、その両方の場合があります。PIP関節は曲がっている期間が長いと関節自体が固くなって治療がしにくくなるため、早めに治療方針について相談することが勧められます。

治療

  • 酵素注射法
    デュプイトラン病の手術イメージ

    2015年から日本でも可能となった治療法です。2日かけて処置をします。初日にはコラーゲンが主成分の病的腱膜内にコラーゲンを分解する酵素(コラゲナーゼ;商品名ザイヤフレックス)を注射で注入します。翌日、柔らかくなった病的腱膜をちぎるように指を伸ばします(伸展処置)。
    薬剤の影響で腫れたり、痛みがでます。また、伸展処置の際に皮膚が裂けることもあります。また、処置により指のつっぱりは改善しますが、病変の病的腱膜自体が注射で消えるわけではありません。しっかりした効果を出すため、また副作用を最小限にするため、注射する部位の判断には専門的な知識・経験が必要です。十分な経験のある手外科医が行います。

  • 手術(部分腱膜切除術)

    従来から行われてきた治療法です。つっぱった部分を切開し、病的な腱膜を亜全摘するように切除(部分腱膜切除)します。これにより指が伸びるようになります。長期間指が曲がっていると皮膚自体も短縮しているため、同時にZ形成という方法も併用して皮膚の短縮も治療します。病変部には重要な神経や血管が巻き込まれていることもあるため、非常に丁寧な手技が必要になります。効果がより確実な方法といえます。