乳がんの薬物療法

全身的な治療です。(乳房から離れた臓器にがんが転移(=遠隔転移)しているような場合にも有効です。)
乳がんの薬物療法は主に以下の目的で行われます。

術前薬物療法(ネオアジュバント療法)

手術前に乳房切除を要するような大きなしこりを小さくして乳房部分切除を可能にしたり、抗がん剤がどの程度効くかを見るため、あるいは転移のあるがんに対して病状をコントロールするために行います。

術後薬物療法(アジュバント療法)

術後の転移再発を予防し、治癒率を向上させるために行います。

再発・転移がんに対する治療

病状の進行を遅らせることや延命効果、がんによる症状を緩らげるために行います。

内分泌療法(ホルモン療法)

がん細胞に女性ホルモンを受け取る受容体(ER:エストロゲン受容体、PgR:プロゲステロン受容体)が存在すれば、使用されます。閉経前と閉経後で使用する薬が異なります。

抗エストロゲン剤

エストロゲンが、がんに働くのを阻止します。

LH-RHアゴニスト製剤

閉経前の場合に卵巣からの女性ホルモンを止めて一時的に閉経後の状態にします。

アロマターゼ阻害剤

閉経後の場合に脂肪でエストロゲンをつくる酵素(アロマターゼ)を阻止します。

黄体ホルモン剤

間接的に女性ホルモンの働きを抑制します。

主なホルモン療法の作用のイメージ【(1)抗エストロゲン剤(内服薬)…乳がん細胞に到達したエストロゲンの働きを阻害する。】【(2)LH-RHアゴニスト製剤(注射薬)…卵巣におけるエストロゲンの生合成を促す下垂体のホルモンの働きを抑え、エストロゲンの産生を低下させる。】【(3)アロマターゼ阻害剤(内服薬)…脂肪組織などで、男性ホルモンから女性ホルモン(エストロゲン)を作る酵素(アロマターゼ)の働きを阻害して、エストロゲンの産生を低下させる。】

内分泌療法の主な副作用

ホットフラッシュ、生殖器の症状、血液系への影響、関節・骨・筋肉の症状、精神・神経の症状が出ることがあります。

化学療法

いわゆる抗がん剤です。多くが点滴薬で、白血球が減って免疫力が低下したり、脱毛やしびれなどが副作用としてしばしば見られます。抗がん剤の種類は多数あり、組み合わせによって投与スケジュールが異なりますので、詳しくは主治医の先生にお尋ねください。

術前・術後化学療法では主にアンスラサイクリン系の薬剤を組み合わせた療法(AC療法:ドキソルビシン+シクロホスファミド、FEC療法:フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド)や、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)の薬剤が使用されます。
転移・再発乳がんではその他の薬剤も使用します。

分子標的薬

がん細胞の表面に存在する特定のたんぱく質を標的として細胞増殖に関わる分子を阻害する作用があります。がん細胞のみを標的として働くので、従来の抗がん剤と比較して副作用が少ないことが特徴です。

抗HER2製剤

HER2タンパクが陽性の乳がんであればトラスツズマブ、ラパチニブ、ペルツズマブという分子標的薬を抗がん剤と組み合わせて使用することで、より治療効果が期待できます。

トラスツズマブ、ペルツズマブ

主な副作用;インフュージョンリアクション(投与開始から数時間に見られる寒気、発熱)、心機能低下など

ラパチニブ

主な副作用;下痢、口内炎、食欲不振、嘔吐、皮疹、爪の障害、疲労、肝機能障害、心電図異常、間質性肺炎など

抗VEGF製剤

がん細胞に栄養や酸素を運ぶ新しい血管が作られるのを妨げ、がんを兵糧ぜめにします。新しい血管を作るために必要なVEGFを妨げる作用があります。ベバシズマブは、パクリタキセルに併用することにより効果が増強します。

ベバシズマブ

主な副作用;高血圧、タンパク尿、粘膜出血(鼻血、歯茎からの出血)、白血球数・好中球減少などがあります。頻度は高くありませんが、うっ血性心不全、血栓塞栓症、消化管穿孔、創傷治癒遅延、腫瘍からの出血が報告されています。

またHER2タンパクが陽性の乳がんにおける再発・転移乳がんの新しい治療薬が発売され効果が期待されます。

その他の治療薬

骨転移治療薬

ホルモン剤や抗がん剤などの乳がん治療を行うのと同時に骨転移に伴う痛み、病的な骨折などの頻度を減少させ、骨転移の症状の進行を遅らせることができます。

ビスホスホネート製剤:ゾレドロン酸

主な副作用;発熱、一時的な骨痛、顎骨壊死

抗RANKLモノクローナル抗体製剤:デノスマブ(分子標的薬)

主な副作用;低カルシウム血症(カルシウム製剤を併用します)、顎骨壊死

骨転移により骨折が起こりそうな状態や痛みが強い場合は放射線療法や手術療法を行うことがあります。