呼吸器外科

特色

当院は東京都よりがん診療連携協力病院に指定されています。呼吸器内科・放射線科・病理部との密接な連携の元に、原発性肺がんを中心として転移性肺腫瘍や縦隔腫瘍、自然気胸、胸壁や胸膜腫瘍など肺、縦隔、胸壁、胸膜の疾患のほとんどを対象に手術治療を行っています。
また当院は東京都二次救急医療機関に指定されています。救急科・呼吸器内科と連携し、必要時には緊急度に応じて自然気胸や胸部外傷の即日診療に努めています。

疾患と治療法

肺がん

肺がんの治療は個々の患者さまによって適切な治療が大きく異なり、また医学の進歩に伴い、標準とされる治療も年々変化しています。原則として臨床病期(ステージ)がI期またはII期の、切除可能な肺がんに対する標準治療は、外科切除です。また最近は検診で早期の肺がんか良性肺病変か判別に迷う影が発見されることも多くなりましたが、肺がんは早期であればあるほど、手術をして病変を摘出し、顕微鏡で病理検査をしてみないと確定診断がつきません。
当科ではほぼ全例で胸腔鏡を用い、低侵襲な手術を心がけています。筋肉を温存する手術であるため、術後の回復は早いです。しかしより重要なのは、個々の患者さまの体力や呼吸機能、肺がんの進行度に応じて、安全かつ確実な手術を行うことと考えています。
当院では迅速病理検査を行える体制を整えており、肺の影が肺がんかどうかの確定診断のみならず、肺がんであった場合にリンパ節へのがんの転移があるかどうかを、手術中に病理診断しています。これにより、治るがんを確実に治しきると同時に、不必要な肺切除を避け患者さまの呼吸機能を温存することに努めています。

肺がん検診で要精密検査となった方へ

肺がん検診は2段階で肺がんを見つける仕組みになっており、疑わしい方には、まず精密検査してもらうのが基本です。要精密検査と判定された人のうち、実際に肺がんが見つかる確率は2~5パーセントとされており、過度に心配なさる必要はありません。
当院では、受診したその日のうちに胸部CT検査を実施できる体制を整えています。追加の精密検査が必要かどうかを、可能なかぎり診察当日に判断しています。第2・第4土曜の診療日は予約制となっています。当科医師による診察のうえ、必要に応じて胸部CT検査や血液検査を行うことが可能です。土曜診療日については、診療カレンダー(https://www.jreast.co.jp/hospital/outpatient/calendar.html/)をご確認ください。なお、診察の際には検診結果とお薬手帳をお持ちください。

転移性肺腫瘍

他の部位にできたがんが、肺に転移した状態です。消化器外科や消化器内科、泌尿器科から紹介された転移性肺腫瘍の患者さまに対して、主治医とよく相談しながら治療方針を決めています。胸腔鏡手術による肺部分切除術を基本とし、呼吸機能の温存に努めています。

自然気胸

肺に孔が開き、肺がしぼむと同時に胸腔に空気がたまっている状態です。肺の表面にブラ(壁の薄い袋のような構造)ができ、ブラが破裂することで気胸を起こします。肺が大きくつぶれている場合は胸腔にチューブを入れ、肺の外に漏れ出た空気を抜く治療を行います。
気胸を繰り返す場合や、肺からの空気漏れが続きチューブを抜くことができない場合には、ブラを切除することで孔をふさぐ手術を行います。胸腔鏡を用いた小さな傷で、尿道カテーテルを入れない短時間での手術を心がけています。

自然気胸での時間外受診について

10代後半~40代の瘦せ型の男性で、右または左の胸の痛みや息の吸いづらさが持続するときは、自然気胸かもしれません。このような場合にはお近くの診療所等を受診し、レントゲン検査を受けることをおすすめします。自然気胸は肺がしぼむ病状であり、その程度によっては緊急での入院治療を要する場合もあります。
当院への受診(初診時)の際には他の医療機関からの紹介状をお持ちいただくようお願いしていますが、休日や夜間に急病になり、診療日・時間まで待てないときは、救急外来を受診することを検討してください。自然気胸は、救急外来で診療することの多い病気といえます。当院では救急科・呼吸器内科・呼吸器外科で連携し、緊急度に応じて自然気胸の即日診療に努めています。

縦隔腫瘍

左右の肺にはさまれた部分を縦隔と呼びます。胸腺腫が縦隔腫瘍では最も多く、無症状ながら大きい状態で発見されることがあります。比較的小さな縦隔腫瘍は、胸腔鏡を用いた小さな傷で手術を行います。

診療実績

肺がん手術件数 気胸手術件数 総手術件数
2022年 24 18 73
2023年 28 25 93

スタッフ紹介

役職・医師名
担当部長 北野 健太郎きたの けんたろう
得意な分野
呼吸器外科一般
胸腔鏡手術・開胸手術
気管支鏡下肺マーキング
認定等
医学博士
日本外科学会認定 外科専門医・外科指導医
呼吸器外科専門医合同委員会認定 呼吸器外科専門医
厚生労働省医政局長認定 臨床研修指導医
厚生労働省健康局長認定 緩和ケア研修会修了
日本呼吸器外科学会 評議員
東京大学医学部 非常勤講師
役職・医師名
特任医師 原田 千佳はらだ ちか
認定等
日本外科学会認定外科専門医

スタッフによる著書

  • 「呼吸器外科最新の治療2019-2020」共同執筆者/北野 健太郎(南江堂)
  • 「胸部外科レジデントマニュアル」共同執筆者/北野 健太郎(医学書院)
  • 「呼吸器外科手術 縦隔・胸壁・胸膜」共同執筆者/北野 健太郎(学研メディカル秀潤社)
  • 見てわかる 呼吸器ケア」共同執筆者/苅田 真(照林社)

呼吸器外科からのメッセージ

2022年4月に東京大学医学部附属病院から赴任しました当科責任者の北野健太郎と申します。当院とのかかわりは初めてではなく、2011年から2012年まで、呼吸器外科医長として勤務しました。これまでの当科の診療体制を引き継ぎ安全・確実な手術をモットーとし、同時に、大学病院で身に付けた最新の技術や知見を取り入れ、診療に生かしていきたいと思います。
肺がんの治療は個別化が進み、手術においても近年ますます精度が求められています。東大病院も参加した多施設共同臨床研究の最新の成果の一つに、小型肺がんに対する縮小手術の標準化が挙げられます。肺がんをとり切ることが手術の目標であることは言うまでもありませんが、同時に呼吸機能を温存することが術後の生活の質を維持するために重要な要素となります。従来はI期の肺がんに対しては肺葉切除が標準手術とされていましたが、肺癌診療ガイドライン2023年版では、条件により縮小手術(区域切除や楔状切除)が推奨されています。当科では個々の患者さまの状態や体力に合わせて、胸腔鏡を用いた小さい傷で、呼吸機能の犠牲が少ない縮小手術を行っています。
縮小手術に欠かせない精密肺手術に際して、東大病院では気管支鏡バーチャル3D肺マッピング(virtual-assisted lung mapping: VAL-MAP)法が用いられています。手術前に気管支鏡を使って、肺表面の複数個所に少量の色素(インジゴカルミン)を噴きつける方法で、手術中、肺表面に複数の色素の斑点を確認することができ、これを「地図」として利用した精密な肺切除が可能となるものです。(解説論文へのリンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6381264/)当院でも2023年4月より、VAL-MAP法を行っています。
肺の状態は個人差が大きく、かたい肺もあればもろい肺もあります。肺の手術を終え退院したあと、併存疾患や肺の様子によっては急な受診を要することは実は珍しくありません。このような場合にも即応できるような救急科・各診療科の連携体制があることが、当院の強みの一つと考えています。患者さま一人ひとりの状態とニーズに合わせた医療を目指し、渋谷・新宿地域の医療に貢献していきます。