リンパ外科・再建外科

特色

  • リンパ外科を専門とする、世界でも数少ない治療施設です。
  • リンパ外科の経験豊富な女性医師、多職種リンパセラピスト(看護師、理学療法士など)によるチーム医療で、患者さまの希望に沿った多角的なアプローチを提供します。
  • 入院でのリンパ管静脈吻合術(LVA)を数多く行っています(年300肢程度)。
  • 重症リンパ浮腫の方や、通院での治療が難しい方には、入院での保存療法プログラムを行っており、圧迫療法、運動療法などのセルフケアを習得していただいています。退院後も続けられるケアを身につけることに重点をおいていますので、退院後もいい状態でお過ごしいただけます。
  • 陰部リンパ浮腫、陰部リンパ小疱(水疱)の診療を積極的に行っています。
  • 10年後、20年後、30年後、50年後といった、一生涯にわたる治療方針を患者さまと一緒に考えます。
吻合したリンパ管と静脈

吻合したリンパ管と静脈

入院での保存プログラム(入院時・退院時・外来受診時)

得意とする疾患、検査、治療

1.対象疾患

  • 上肢リンパ浮腫
  • 下肢リンパ浮腫
  • 陰部リンパ浮腫、リンパ小疱(水疱)
  • リンパ浮腫に伴う蜂窩織炎
  • リンパ嚢胞、リンパ漏

下肢リンパ浮腫に対する治療コンセプト

下肢リンパ浮腫に対する治療コンセプト 治療前/治療2年後

18年前に子宮頚がんに対して広汎子宮全摘術、リンパ節郭清術、放射線治療術を受けました。治療後から、両下肢リンパ浮腫が出現し、保存療法を行いましたが徐々に症状が悪化しました。ここ数年は年4回程度の蜂窩織炎(40℃程度の発熱)が起こり、また、リンパ漏が下腿裏面や大腿内側から持続している状態で、圧迫療法を行うことも、社会生活を送ることも大変難しい状態でした。当診療チームにおいて、2回の局所麻酔下リンパ管静脈吻合術を行い、蜂窩織炎が起こらなくなったことで圧迫療法を行えるようになり、浮腫の改善に加えて、リンパ漏も消失しました。

上肢リンパ浮腫に対する治療コンセプト

上肢リンパ浮腫に対する治療コンセプト 治療前/治療1年後

12年前に右乳がんに対して乳房切除術、リンパ節郭清術、放射線治療術を受けました。治療後から、右上肢のリンパ浮腫が出現し、保存療法を行いましたが、症状が徐々に悪化しました。ここ数年は年間10回以上の蜂窩織炎(40℃程度の発熱)が起こっている状態で、社会生活を送ることが大変難しい状態でした。当診療チームにおいて、局所麻酔下リンパ管静脈吻合術を2回行い、術後は浮腫の改善に加えて、蜂窩織炎もほぼ消失しました。その後、整容面の改善を目指して、象皮病根治術(余分な脂肪や皮膚を除去する手術)を実施しました。

2.リンパ浮腫の診断

原尚子医長の写真

患者さまご自身やご家族に、現在のリンパ管の状態を見ていただきながら、現状のご説明をします。リンパ機能を評価することで、より適切な治療法を選択でき、治療効果が予測できます。

超音波検査(上肢・下肢・陰部・下腹部)

従来使われていたリンパシンチグラフィやICG蛍光リンパ管造影検査では、リンパ管硬化、つまりどのくらいリンパ管が傷んでいるかの診断はできませんでした。超音波検査を用いた最新の方法では、リンパ管硬化の診断を行うことができます。これまでより高い確率で、よりよいリンパ管を見つけることができるようになりました。何より痛みがなく、身体への負担がかからない検査です。他の医療機関でリンパ管が見つからないと言われた方や、むくみがあるかどうか心配という方もまずはご相談下さい。

超音波検査(上肢・下肢・陰部・下腹部)イメージ

リンパシンチグラフィ(上肢・下肢・陰部・下腹部)

リンパシンチグラフィ(上肢・下肢・陰部・下腹部)イメージ

放射性同位体(弱い放射線の出る薬)を手や足の指のつけ根に注射すると、リンパ管の中に取り込まれていきます。これによって、全身および深部のリンパ管の走行やリンパ機能を解析することができます。インドシアニングリーンリンパ管造影法との併用で、患者さまのリンパ浮腫の状態を詳細に把握することが可能となり、病態に合わせた治療法を提案することができるようになりました。注射後、時間をおきながら数回撮影することで、リンパ機能の評価を的確に行うことができます。この検査は、ヨード系造影剤(CTの造影剤)にアレルギーがある方でも受けることができます。

ICG蛍光リンパ管造影検査(上肢・下肢・陰部・下腹部)

ICG蛍光リンパ管造影検査(上肢・下肢・陰部・下腹部)イメージ

インドシアニングリーン(ICG)という緑色の色素を手や足の指のつけ根などに注射すると、リンパ管に取り込まれていきます。これにより、表在のリンパ管の走行や、残存するリンパ機能をリアルタイムで解析できます。
リンパシンチグラフィよりも感度が高いので、痛みや、張り感があるような早期リンパ浮腫も、確実に診断できます。
ヨード系造影剤にアレルギーがある方は、この検査はうけられません。

3.リンパ管静脈吻合術(LVA)

リンパ管静脈吻合術(LVA)とは、検査や治療においてできる限り患者さまの身体の負担を減らした治療法です。当院では、患者さま毎の病態に併せて、リンパ管静脈吻合術、リンパ節移植術、脂肪吸引術、象皮病根治術を選択しております。

Super-Microsurgery Instruments in Japan

超微小外科(1mm以下のリンパ管・血管・神経吻合技術 / Super-Microsurgery)という日本発の最先端外科技術、様々な日本の高精度医療機器(ICGリンパ管蛍光造影装置、手術用針糸、手術用器具、超音波検査等)を用いて、患者さまに適した治療を選択します。

リンパ管静脈吻合術(LVA)の実施件数

リンパ管静脈吻合術(LVA)の実施件数

入院中・退院後のフロー

4.蜂窩織炎に対する治療

60代女性 子宮頸がん術後 12回/年→0回

60代女性
子宮頸がん術後
12回/年→0回

60代女性 乳がん術後 10回/年→0回

60代女性
乳がん術後
10回/年→0回

90代女性 子宮がん術後 4回/年→0回(敗血症性ショック)

90代女性
子宮がん術後
4回/年→0回
(敗血症性ショック)

リンパ浮腫の合併症である蜂窩織炎についても新しい対策をおこなっています。リンパ管静脈吻合術を行うことで、約93%の患者さまで症状の改善を認め、蜂窩織炎の発生頻度は1/8に低下します。日頃のセルフケアの見直しとともに手術についても考えていきます。

5.陰部リンパ浮腫、リンパ小疱、リンパ漏に対する治療

陰部のリンパ浮腫やリンパ小疱(図①)には、いろいろな方向からリンパ液が流れ込んでいて、これが症状の悪化につながっていることがわかってきました(図②)。足から流れ込む人、お尻から流れ込む人、お腹から流れ込む人などさまざまです。2つ以上の方向からリンパ液が流れ込むこともあります。治療を始める前に検査を行い、リンパ流の方向を確認してから治療方針を決めることが大切です。治療はいろいろな方法を組み合わせて行います。

  1. 1圧迫療法(便利な圧迫パッドやガードルもあります)(図③)
  2. 2リンパ小疱の切除術(範囲が広い場合は全身麻酔)
  3. 3再発予防のリンパ管静脈吻合術(LVA)

リンパ小疱にはいろいろな方向からリンパ液が流れ込んできますので、切除しただけではすぐに再発してしまいます。現在では、リンパ液がどこから流れ込んでいるのかを検査でつきとめ、その流れをせきとめるように足やお尻でLVAを行ってリンパ液の逃げ道を作ることで、再発率が1/3くらいに低下しています。

リンパ小疱を切除することで、リンパ小疱がなくなってすっきりするのはもちろん、リンパ液が漏れてくることもなくなり、蜂窩織炎も起こりにくくなります。範囲が広い場合は全身麻酔になりますが、小さなリンパ小疱なら小さな傷で局所麻酔での手術ができますので、早めにご相談ください。

リンパ小疱が広がらないため、また手術後に再発しないようにするため、体重コントロールも重要です。
※治療等の主なリスク、副作用、手術費用について、詳しくは

をご覧ください。

図①リンパ小疱

図①リンパ小疱

図②リンパ浮腫がある場合の陰部周囲のリンパの流れ

図②リンパ浮腫がある場合の陰部周囲のリンパの流れ

図③陰部の圧迫用品

図③陰部の圧迫用品

6.入院による集中的な保存療法

重症リンパ浮腫の患者さま、地方在住で地元での十分な保存療法が受けられない患者さまを対象に、入院での保存療法を行っております。入院期間は2~3週間で、入院中にむくみがよくなるのはもちろんのこと、自宅でも行えるセルフケアをしっかり習得していただきますので、退院後もいい状態を保つことができます。ご自身でのケアが難しい場合は、訪問看護師、ヘルパーさんなどと連携して、よりよいケアをご相談していきます。

  • 圧迫療法(ストッキング、包帯)の習得
  • セラピストによるリンパドレナージ
  • 理学療法士・作業療法士による運動指導
  • 公認心理士による心理的サポート
  • 必要に応じてさまざまな専門医師の診察

などを総合的に行います。退院したあとには、入院前よりも健康的で活動的な生活を送れるよう、多職種チームでサポートしていきます。まずは外来でご相談ください。

入院での保存プログラム(入院時・退院時・外来受診時)

メッセージ

原尚子医長の写真

リンパ外科・再建外科は、リンパ外科を専門とする、世界でも数少ない治療施設です。リンパ外科の経験豊富な女性医師が診療を行っておりますので、女性患者さまにも安心して受診していただけます。
リンパ浮腫は治らない病気とされてきましたが、検査、治療技術の向上により、多くの患者さまで症状を改善できるようになりました。特に心掛けているのは、医学的なエビデンスをもとにしつつ、患者さまの思い、今後の目標をお聞きしながら治療法を選択していくことです。日常生活はもちろん、仕事、趣味、旅行、マラソンなどもできるようになります。また当院では、リンパ関連の様々な診断、治療を行っておりますので、他の医療機関で診断や治療が難しいと言われている患者さまも、ぜひ一度ご相談ください。
それぞれの患者さまの生活、人生をサポートしていきたいと思っております。

スタッフ紹介

役職・医師名
医長 原 尚子はら ひさこ
得意な分野
リンパ外科、リンパ浮腫の保存療法、形成外科全般
認定等
日本形成外科学会認定形成外科専門医
役職・医師名
非常勤医師 河原 真理かわはら まり

診療案内

1.外来案内

土(第2、4週)
午前
午後 原、河原

2.予約方法(初診)

完全予約制ですので、必ず予約をお取りいただきますよう、お願いいたします。初診の方は紹介状(診療情報提供書)が必要です。また、リンパ浮腫に伴う蜂窩織炎が頻繁に起こっている場合など緊急を要する方は、かかりつけ医にご相談ください。当院での治療が必要と判断された場合は、かかりつけ医より当院にご連絡ください。

  • ※紹介状(診療情報提供書)の提出がない場合は、保険外併用療養費として5,500円(税込)を負担いただきます。

3.電話予約について

受付方法

  • 毎月1日に6か月後の月の予約受付を開始いたします。
  • 先着順の受付とし、予約枠がいっぱいになった時点で受付を終了させていただきます。

連絡先

医療連携室
03-3373-5931

受付時間:午前8時30分~午後5時(休診日を除く)

当科の初診予約に関しましては、患者さまにお手数をおかけしてしまい、また予約を取りにくい状況となってしまっており、大変申し訳ありません。
私たちは、これまでに積み上げてきた科学的なデータをもとに、患者さま一人ひとりに合った治療をご提供できるよう、日々つとめております。ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

医療関係者のみなさまへ

当院では、これまでに蓄積してきた医学的なエビデンスをもとに、リンパ浮腫をはじめとするむくみの診療を行っております。まずは浮腫の原因を精査して、診断に応じて適切な治療をご提案します。

リンパ浮腫に対しては、圧迫療法や運動療法などの保存的治療、リンパ管静脈吻合術(LVA)などの外科的治療を総合的に行っており、エビデンスの構築にも力をいれております。集中的な保存療法が必要な場合は、信頼できるリンパ浮腫専門医療機関や治療院と密に連携しながら、治療を行ってまいります。また、通院でのセルフケア確立が難しい場合は、2~4週間の入院で、圧迫療法や運動療法を練習していただくプログラムも行っており、遠方の患者さまにもご利用いただいております。
むくみでお困りの患者さまがいらっしゃいましたらぜひご紹介ください。

手術前の検査に関しまして、遠方にお住まいの患者さまには、事前(手術の1~3ヶ月前)に一般的な術前検査を地元で受けていただくようお願いしております。大変お手数ですが、下記の検査を実施いただけますと幸いです。

検査一覧

  1. 1採血:血算、アルブミン、肝機能、腎機能、脂質、グルコース
  2. 2心電図
  3. 3(全身麻酔の場合)胸腹部レントゲン