疾患

膝前十字靭帯損傷

膝関節にはいくつかの靭帯(骨と骨をつなぐ線維の束)があり、靭帯が関節を安定させています。このためスポーツ外傷や交通事故などで靭帯が損傷されると膝がグラグラと不安定になります。靭帯の中でも内側側副靭帯や後十字靭帯など、ある程度損傷しても困ることが少ないものもあります。ところが、前十字靭帯損傷の場合にはスポーツ活動に復帰することが難しくなります。
その理由は前十字靭帯が膝関節の回旋(ねじれ)を制動しているためです。そして一度損傷すると回旋の制御は回復しないことが圧倒的に多く、膝関節の「ねじれ」を伴うバスケットボールやサッカー、スキーなど多くのスポーツでは復帰してもターンや切り返し動作、ジャンプの着地などの時に捻挫を再発し、復帰が難しくなります。ゆるみの強い人は、日常生活でも段差の踏み外しなどのちょっとしたアクシデントで膝がずれるような捻挫を繰り返すこともあります。
診断は主に診察とMRIによって可能です。膝前十字靭帯損傷の診察では、上述の理由で、「ねじれ」に対する安定性の有無を見分けるのがポイントとなります。特殊な手技のため、一般の整形外科医では診断できないことも多々あるので、専門家を受診することを強くお勧めします。MRIでは前十字靭帯の損傷を高い精度で確認できると同時に、診察では見つけにくい半月板損傷や軟骨損傷を調べることができます(図1)。

図1-1 MRI:膝前十字靭帯損傷

図1-1)MRI:膝前十字靭帯損傷

図1-2)MRI:半月板損傷

図1-2)MRI:半月板損傷

診察の結果、

  1. 1「ねじれ」の程度が大きい人ではスポーツ復帰できないこと
  2. 2小さな捻挫を繰り返すことで関節内の重要な軟骨(半月板、関節軟骨)を損傷し、関節の老化を早めてしまうこと
以上、二つの理由に当てはまる選手・患者さまには手術療法をお勧めしています。

膝前十字靭帯再建術

膝前十字靭帯の治療で、現在世界中で推奨されている唯一の手術方法が再建術です。再建術では靭帯の代わりになる腱を使います。腱とは筋肉と骨をつなぐ堅いスジ状の組織で、靭帯に似た特性があります。腱は自分の体のなかから採取して使用(自家腱)します。自家腱としてはハムストリングス(膝を曲げるモモ裏の筋肉)の腱である半腱様筋腱、またはお皿のすぐ下にある膝蓋腱が世界中でよく使われます。
手術術式は様々ですが、関東労災病院スポーツ整形外科、東大病院整形外科、東京逓信病院整形外科で10年に渡り膝関節・スポーツ整形外科を担当して様々な術式に対応可能ですので、選手の予後を想像しながら術式の相談、選択をすることにしています。どちらの腱(半腱様筋腱・膝蓋腱)も術後の成績はよいですが、それぞれに特徴がありますので、選手の状況や希望に応じて使い分けています。
手術はいずれの腱を使う場合にも元々の靭帯機能の再現を目指して解剖学的な再建(図2-1.2)を行います。軟骨損傷や半月板損傷などの損傷があれば同時に治療します。手術は通常1-2時間で終了します。入院期間は2週程度で、退院時には杖なしで歩いて退院します。

図2-1)正常な膝前十字靭帯

図2-1)正常な膝前十字靭帯

図2-2)前十字靭帯再建術後

図2-2)前十字靭帯再建術後

外来には最初の2ヶ月までは2週に1回、その後は月に1回程度の通院となります。最初の2ヶ月は膝関節を保護する装具(あるいはサポーター)を装着します。リハビリテーションによって徐々に筋力が回復してきますので段階に応じて運動制限を解除します。
一般的には3ヶ月からジョギング、5ヶ月から元の運動に部分参加していきます。この期間は再受傷がないように慎重に進めていくことがとても大切になります。
通常は8ヶ月から1年での復帰を目指します。復帰の目安は筋力の回復と運動動作の獲得ですので、復帰へのモチベーションやリハビリテーションに割ける時間、筋力のつきやすさなどにより個人差が大きくなります。

半月板損傷

膝関節内には半月板という、関節にかかる体重を分配して負担を減らしたり、関節運動を円滑に行わせたり、安定性を助けるなど、非常に大切な役割をもった軟骨があります。過度な運動で損傷したり、老化によって痛んだり、もともと先天的な異常があって痛むことがあります。半月板が痛むと上記のような機能が損なわれ、歩行時、運動時に痛みが出てきます。主には膝の曲げ伸ばしで痛みを伴う引っかかりがおきたり、急に膝の曲げ伸ばしができなくなったりします。損傷が進むと安静にしていても痛むことがありますし、天候が悪くても痛むことがあります。
正常の半月板は写真(図3)で分かる通り真っ白です。これは血行からの栄養をあまり受けていないことを示しています(関節軟骨も同じですね)。つまり一度損傷されると血流からの修復機転が起こらず、なかなか治りません(図4)。
損傷がひどくなると、体重による負担を分散する機能がそこなわれますので、関節の老化現象が加速することになります。そうならないうちに適切に対処する必要があります。また実際に動きの障害になるものに対しては早期に原因を取り除かなくてはなりません。

図3)正常な軟骨と半月板

図3)正常な軟骨と半月板

図4)半月板損傷

図4)半月板損傷

運動制限、筋力訓練、固定、消炎鎮痛薬、インソール(靴の中敷き)などが初期の治療になります。こうした方法が効かなかった場合や、関節の痛みや可動域制限などの症状が強く、MRI検査の結果、最初から保存療法の適応がないものが手術療法の適応となります。
手術は関節鏡という内視鏡(図5)で行います。関節鏡は日本で初めて実用化された機器で、小指の爪先くらいの小さい傷を2~3カ所つけて、そこから関節内の操作を行うもので、手術による体の負担が小さいのが特徴です。

図5-1)関節鏡(直径4mmの硬性鏡を使用している)

図5-1)関節鏡(直径4mmの硬性鏡を使用している)

図5-2)手術風景1(大きなモニターを見ながら手術を行う)

図5-2)手術風景1(大きなモニターを見ながら手術を行う)

図5-3)手術風景2(膝関節に関節鏡と処置用の器具を挿入しているところ)

図5-3)手術風景2(膝関節に関節鏡と処置用の器具を挿入しているところ)

手術の実際は、損傷の原因や形態により様々ですが、大別すると縫合(縫う・修復する)か切除(取る)か、になります。半月の機能をなるべく守りたいので、可能な限り縫合(修復)を選択します。この場合には、ただでさえ治りにくい半月を修復するために、手術後には膝の曲げ伸ばしの運動制限や階段昇降等の日常生活の制限を設けてリハビリテーションを長めに設定します。一方、切除のみの場合には大きな制限はつけません。
入院期間は2泊3日に設定していますが、状況に応じて延長が可能です。担当医とご相談下さい。
運動復帰は断裂状況にもよりますが、一般的には切除の場合には術後3ヶ月、縫合の場合にはその倍はかかります。

軟骨損傷

関節軟骨は関節内にあり、関節の運動を円滑に行う上で無くてはならないもので、正常な関節軟骨の滑りやすさはアイススケートでの滑りやすさと同等かより低い(よく滑る)と言われています。
この軟骨も半月板と同様で血流による自然な治癒がおこりにくい組織なのです(図3)。軟骨損傷は年代毎に特徴があり、治療が異なります。
治療法により大まかに10歳ごろにピークのある離断性骨軟骨炎、半月板損傷や靭帯損傷など外傷に伴っておこる軟骨損傷、中高年に生じる広範な軟骨損傷(老化)に分けられます。

離断性骨軟骨炎

離断性骨軟骨炎は軟骨が骨ごとはがれる病気(図6)で、膝以外にも肘(外側の野球肘)や足首(捻挫と関連した軟骨障害)にもおこります。原因は不明ですが、成長期の骨に小さな負担が積み重なっておこると考えられています。野球肘のように原因がはっきりしているものもありますが、先天性の要因があって発生することもあります。

図6)離断性骨軟骨炎:肘の関節に剥がれた軟骨が挟まり込んでいる。

図6)離断性骨軟骨炎:肘の関節に剥がれた軟骨(↑)が挟まり込んでいる。

多くは10歳頃に膝関節の脹れと痛み、引っかかりが大きなきっかけも無くおこります。初期はレントゲンでは分からないことが多く、MRI検査が診断にはとても有用です。安静のみで自然に治癒することもありますが、はがれ方が大きい場合や剥がれてしまった場合には手術療法が必要になります。
手術には、軟骨の下層に穴を開けて、深部の骨から骨髄を誘導して骨癒合を期待する骨穿孔術や、自分の骨で作った釘(骨釘)や体内で自然に分解される釘(吸収性ピン)などを用いて固定する固定術(図7-1)、自身の正常軟骨を病変部に移植する骨軟骨柱移植術(図7-2、図8-2)などがあります。可能な限り自分の組織、自分の軟骨での修復を目指します。

図7-1)離断性骨軟骨炎の治療1:骨釘固定

図7-1)離断性骨軟骨炎の治療1:骨釘(↑)固定

図7-2)離断性骨軟骨炎の治療2:骨軟骨柱移植

図7-2)離断性骨軟骨炎の治療2:骨軟骨柱移植

軟骨損傷

多くが半月板損傷や靭帯損傷、あるいは骨折などのケガや交通事故などの結果で軟骨が損傷されたものです。多くは軟骨が既に欠損しており、そのために水がたまり、痛みや引っかかりがおこります(図8-1)。

図8-1)軟骨損傷

図8-1)軟骨損傷

図8-2)軟骨損傷に対して骨軟骨柱を関節鏡視下に移植したところ

図8-2)軟骨損傷に対して骨軟骨柱を関節鏡視下に移植したところ

運動制限、筋力訓練、固定、消炎鎮痛薬、注射、インソールなどの保存治療(手術をしない治療)が初期の治療になります。この間に軟骨損傷が修復されてくることがあります。その場合にも、完全に元通りにはならず線維軟骨という軟骨で補填されていることが多いです。
上記で症状が取れないものに対しては手術が必要になります。範囲が小さいものは下層の骨髄を誘導して軟骨欠損部を修復する骨穿孔術で対応が可能です。ある程度大きなものに対しては骨軟骨柱移植術で対応します(図7-2、図8-2)。

自家培養軟骨移植術

怪我が原因で生じた、より大きな軟骨欠損に対しては、患者さま自身の軟骨を少量採取し、専門施設で培養して大きな軟骨を作って移植する、自家軟骨培養移植術を行います。

図8-3)培養して大きくした軟骨

図8-3)培養して大きくした軟骨

図8-4)自家培養軟骨の移植フロー(膝関節)

図8-4)自家培養軟骨の移植フロー(膝関節)

広範な軟骨損傷

範囲の広い外傷や、老化による軟骨損傷(図8-5)を修復できる良い方法はまだありません。今後の研究が待たれますが、現状では関節の負担を避ける方法が治療となります。

図8-5)変形性関節症:軟骨が広範囲に削れている

図8-5)変形性関節症:軟骨が広範囲に削れている

具体的にはやはり運動制限、筋力訓練、固定、消炎鎮痛薬、注射、インソールなどが初期の治療になります。保存療法による治療効果に限界がある場合には、手術療法として骨穿孔術、骨切り術、人工関節置換術など患者さまの状況にあった治療法を検討します。

関節鏡を使用した治療

関節鏡(関節の内視鏡)は、1957年に日本が世界で初めて実用化した診断・治療ツールです(図5-1)。現在では世界中に広まり、使用されています。

図5-1)関節鏡(直径4mmの硬性鏡を使用している)

図5-1)関節鏡(直径4mmの硬性鏡を使用している)

靭帯損傷や半月板損傷など関節内の損傷に対しては、この関節鏡を使用して手術を行っています。関節鏡を使用する事で、患者さまに与える影響を可能な限り小さくして、高度な手術を行う事が可能です。
図3の写真は関節鏡で見た関節内の様子です。

図3)正常な軟骨と半月板

図3)正常な軟骨と半月板

大きく皮膚を切開して直接見るより、関節内の様子がより奥まで大きく見え、より高度で正確な処置が可能です。関節鏡を挿入する傷は小指の爪の幅ほどで、患者さまに与える侵襲は非常に少ないものです(図5-2、3)。

図5-2)手術風景1(大きなモニターを見ながら手術を行う)

図5-2)手術風景1(大きなモニターを見ながら手術を行う)

図5-3)手術風景3(膝関節に関節鏡と処置用の器具を挿入しているところ)

図5-3)手術風景3(膝関節に関節鏡と処置用の器具を挿入しているところ)

当科では膝関節だけでなく、足関節、股関節、肩関節、肘関節、手関節などにも関節鏡視下手術を行っています。

変形性関節症に対する保存療法

人生の中で、健康に歩いて暮らすことはとても大切なことです。人生の後半では歩くこと、移動することが困難になると全身が弱って、介護が必要になってしまいます。このように運動器(骨・関節・筋肉など)の障害により移動能力が低下し要介護の危険が増した状態をロコモティブシンドロームといいます。
ロコモティブシンドロームの大きな原因の一つがひざ関節の老化現象である変形性膝関節症です。早い段階(症状がでる前)から筋力やバランスの訓練をして運動器の衰えを防ぐことがとても重要です。しかし、症状がでた場合には、治療が必要になります。
ひざの老化現象のために症状がでた場合(変形性膝関節症)には保存療法(手術をしない治療)として、主に筋力訓練指導を行うリハビリテーションやインソール(靴の中敷き)を作成する装具療法、内服・外用薬の使用、ヒアルロン酸注射などを行います。
私たちが指導する筋力訓練は膝の痛みがあっても安全に行える訓練です。簡単な3種類の運動を行って頂きます(図9)。実際に筋力が付くまでには時間がかかりますが、筋肉に命令を伝えてから収縮するまでの時間(筋肉の反応時間)は訓練を開始すると早い段階から学習されるようです。このために訓練を開始した早い時期から痛みが和らぐ方が多いように感じています。まずはこの簡単な筋力訓練を行って頂き、それでも痛みが引かない方にインソール(図10)、内服等を追加していきます。

図9)運動療法

図9)運動療法

図10)インソール(靴の中敷)

図10)インソール(靴の中敷)

変形性関節症に対する手術療法

みなさんは平均余命という言葉をご存知でしょうか?
0歳児の平均余命は、平均寿命(女性86.39歳、男性79.64歳)といいます。
では60歳では、70歳では、80歳の方の余命はどうでしょうか?
実は・・・
60歳の方の平均余命は 女性 28.37年 男性 22.84年
70歳の方の平均余命は 女性 19.53年 男性 15.08年
80歳の方の平均余命は 女性 11.59年 男性 8.57年(平成22年度厚生労働省)
と、いずれも平均寿命より長く生きていることがわかっています。この余命をできるだけ楽しく、痛みなく過ごして頂くことが私たちの治療の目的の一つです。
ひざ関節の老化現象のために症状が出た場合には、まず保存療法をおこないますが、症状が取れない場合には手術を行います。手術方法には患者さまの年齢や生活背景、変形の程度によって種々のものがあります。

骨切り術

主に70歳より若い、O脚の患者さまに行います。ひざ関節には手を付けずに温存し、老化や変形のためにO脚になってしまった脚をX脚に矯正してひざ関節の負担を軽減します(図11)。矯正するために骨を切るために、骨切り(こつきり)術と呼びます。切った骨が治るまでにやや時間がかかりますが、関節自体には手を付けないで温存しておくことができます。

図11)高位脛骨骨切り術(O脚(写真左)をX脚(同右)に矯正する)

図11)高位脛骨骨切り術(O脚(写真左)をX脚(同右)に矯正する)

また、数の少ないX脚型の変形の患者さまには大腿骨での矯正を行うこともできます。
これまで示した通り、人工関節にはまだ早い年齢での変形や外傷に対しては、可能な限り、「ご本人の関節を温存する手術術式」を優先して検討しています。
これまで、靱帯再建術+骨切り術、半月板修復術+骨切り術、自家骨移植術+骨切り術、自家培養軟骨移植術+自家骨移植術+骨切り術など、現在使用可能な術式を組み合わせた関節再建術を行っています。

図12)骨折後のX脚型の変形に対して行った、自家培養軟骨移植術+自家骨移植術+遠位大腿骨骨切り術

図12)骨折後のX脚型の変形に対して行った、自家培養軟骨移植術+自家骨移植術+遠位大腿骨骨切り術

人工関節置換術

単顆人工関節置換術

主に70歳以降で変形が少なくても痛みの強い患者さまに行います。部分的に人工の関節に置換する手術(単顆人工関節置換術、図13)方法です。人工関節全置換術(下記)に比べて、からだに与える影響が少ない手術です。

図13)単顆人工膝関節置換術(部分的な置換)

図13)単顆人工膝関節置換術(部分的な置換)

人工膝関節全置換術

主に70歳以上で変形の強い患者さんに行います。膝関節全体を人工の関節に入れ替えます(図14)。手術の目的は痛みをなくすこと、脚を真っ直ぐにすることです。70歳未満の方でも骨切り術などの関節再建術が適応にならず、日常生活を送るのが難しくなってしまった方には人工関節置換術を行うことがあります。
この手術は長期に安定した成績が期待できる手術方法で、世界中で行われています。当院でも安定した成績で行うことが可能です。
この分野でも多くの研究と機械・技術の発達があり、当院では患者様の膝の状態に応じて、概ね3機種、4手技を使い分けています。
変形が比較的少ない患者様には正常な膝の動きを可能な限り追求した人工関節を2機種使用しています。機種によっては手術前に患者様自身の膝モデルを作成して手術計画を行い、体に与える影響をより少なくすることもできます(図15)。
変形が強い患者様に対しては様々な骨の欠損などにも対応できるような、対応力のある人工関節を使用しています。症例に応じてナビゲーション支援やロボット支援の下で手術を行い(図16)、より正確に人工関節を設置しています。

図14)人工膝関節全置換術(関節全体の置換)

図14)人工膝関節全置換術(関節全体の置換)

図15)患者さまの膝モデルとそれにあわせたオーダーメイド骨切りガイド

図15)患者さまの膝モデルとそれにあわせたオーダーメイド骨切りガイド

図16)ロボット支援下での人工関節手術

図16)ロボット支援下での人工関節手術

アキレス腱断裂

アキレス腱は人体で最大の腱(筋肉と骨をつなぐ線維の束)です。大きな負担がかかることで断裂します。中高年で多い印象がありますが、スポーツ選手でも多く発生し、年齢幅は若年者から高齢者まで幅広く発生しています。診断は容易ですが、治療法は病院により大きく異なります。
治療は手術をしない方法(保存療法)と手術療法に大別されます。どちらもよく治りますが、早期にリハビリテーションが行えるような治療でなければ保存療法はお勧めできません。その場合には手術療法が有利です。当院では確実に早い段階でリハビリテーションを開始できる手術療法をお勧めしています。
手術・リハビリテーションは私が修行した関東労災スポーツ整形外科での方法(内山式)を踏襲しており、元々のアキレス腱の長さを保つように線維を丁寧に修復し、しっかりと縫合します。
手術後は4-5日目からギプスでの荷重歩行(体重をかけた歩行)を始めます。以降荷重制限はありませんので、慣れれば杖なしで歩くことが出来ます。
手術の傷が安定する術後2週目でギプスを取り外し、専用の装具を装着して可動域訓練(足首を動かす訓練)を開始します。この時点で入浴が可能になります。
その後は動きの改善の程度に伴い筋力訓練が始まります。
手術後1ヶ月半から2ヶ月で背のび(つま先立ち)の訓練が始まり、3ヶ月までにジョギングを開始、徐々に縄跳び、軽い運動、元々のスポーツ活動に復帰していきます。最短で5ヶ月程度のプログラムを作成していますが、患者さまの進行度合いを見ながら適宜修正します。

疲労骨折の治療

疲労骨折とは正常の骨に、過剰な負担がかかって徐々に発生する骨の障害です。多くは運動を休止すれば治癒しますが、スポーツ活動の中で発生することが多いので、治癒期間を短縮させるために手術療法が必要になることがあります。
昔は応援団の太鼓叩きによる尺骨(腕の骨)、ウサギ跳びによる腓骨(ふくらはぎの外側)、軍隊の中足骨(足の甲)の疲労骨折が有名でした。実は他にも肋骨、肘、骨盤、大腿骨・脛骨・腓骨など全身に疲労骨折が起こります。これら多くは的確に診断し、運動制限をすることで自然に治癒します。治療が長引く場合には超音波骨折治療器を使用しています。
一方、サッカーやバスケットボールなどで発生する第5中足骨疲労骨折(ジョーンズ骨折)、陸上選手に多い足舟状骨疲労骨折、跳躍系の競技に多いスネの脛骨疲労骨折などは保存治療では治癒までに長い時間がかかることがあり、競技活動を継続するために手術の適応になることがあります。負荷に対する強度を増すためにスクリュー固定や髄内釘固定を行います。確実性を上げるために骨移植を併用することもあります(図17)。
女性アスリートでは、稀に月経障害などによる骨の代謝が要因の一つとなって疲労骨折が発生する場合もあります。様々な状況を総合して多方面から治療を行います。

図17-1)第5中足骨疲労骨折(ジョーンズ骨折:サッカーやバスケットボールなどの選手に多い。右は手術後のレントゲン写真)
図17-1)第5中足骨疲労骨折(ジョーンズ骨折:サッカーやバスケットボールなどの選手に多い。右は手術後のレントゲン写真)

図17-1)第5中足骨疲労骨折
(ジョーンズ骨折:サッカーやバスケットボールなどの選手に多い。右は手術後のレントゲン写真)

図17-2)足舟状骨疲労骨折 術後

図17-2)足舟状骨疲労骨折 術後

成長期の障害

骨が成長する段階では、様々な骨障害が発生します。
肩ではリトルリーガーズショルダー、肘では野球肘、膝ではオスグッド病、足ではシーバー病が代表的ですが、他にも多くの骨障害(正確には骨端障害、骨端線障害)が生じます。上述した離断性骨軟骨炎もこの範疇に入ります。また、その結果として成長完了後にも障害が残る場合があります。治療は負担を少なくする様なサポーターや装具などを使用し、運動量の調整が必要になる場合が多いですが、リトルリーガーズショルダーや外側型の野球肘(図6)のように厳格な運動制限が必要になる場合もあります。自己判断をせずに専門家に相談することをお勧めします。

図6)離断性骨軟骨炎:肘の関節に剥がれた軟骨が挟まり込んでいる。

図6)離断性骨軟骨炎:肘の関節に剥がれた軟骨(↑)が挟まり込んでいる。