リンパ外科・再建外科は、リンパ外科を専門とする世界中でも数少ない治療施設です。JR東京総合病院では、国内外の患者さま達に安心して治療を受けていただけるよう、2018年1月に当診療科を開設します。これまで治療が難しかったリンパ浮腫、リンパ関連疾患を、超微小外科技術、再生医療技術を用いて、治癒させることを目標としています。新しい医療技術であるため、8つのコンセプト(J twincles)を持って日常の診療にあたっております。特に心掛けていることは、医学的・科学的なエビデンスを基に、患者さまの状況、治療歴、思い、今後の目標をできるだけ組み入れた形で、患者さまやご家族と相談しながら治療法を選択していくことです。リンパ外科の経験豊富な女性医師も在籍しており、女性患者さま達にも安心して受診していただけます。また当院では、リンパ関連の様々な診断装置、治療法を実施しておりますので、他の医療機関で診断や治療が難しいと言われている患者さまも、あらためて治療方針を練り直すことができます。
18年前に子宮頚がんに対して広汎子宮全摘術、リンパ節郭清術、放射線治療術を受けました。治療後から、両下肢リンパ浮腫が出現し、保存療法を行いましたが徐々に症状が悪化しました。ここ数年は年4回程度の蜂窩織炎(40℃程度の発熱)が起こり、また、リンパ漏が下腿裏面や大腿内側から持続している状態で、圧迫療法を行うことも、社会生活を送ることも大変難しい状態でした。当診療チームにおいて、2回の局所麻酔下リンパ管静脈吻合術を行い、蜂窩織炎が起こらなくなったことで圧迫療法を行えるようになり、浮腫の改善に加えて、リンパ漏も消失しました。
12年前に右乳がんに対して乳房切除術、リンパ節郭清術、放射線治療術を受けました。治療後から、右上肢のリンパ浮腫が出現し、保存療法を行いましたが、症状が徐々に悪化しました。ここ数年は年間10回以上の蜂窩織炎(40℃程度の発熱)が起こっている状態で、社会生活を送ることが大変難しい状態でした。当診療チームにおいて、局所麻酔下リンパ管静脈吻合術を2回行い、術後は浮腫の改善に加えて、蜂窩織炎もほぼ消失しました。その後、整容面の改善を目指して、脂肪吸引手術を実施しました。
超微小外科(1mm以下のリンパ管・血管・神経吻合技術 / Super-Microsurgery)という日本発の最先端外科技術や高いレベルの再生医療技術、また、様々な日本の高精度医療機器(ICGリンパ管蛍光造影装置、手術用針糸、手術用器具等)を用いて、患者さまにとって最適な治療を選択、実施します。
仕事を持っている患者さま達をより細やかにサポートします。土曜日診療、日帰り手術(入院も可)を実施します。私たちは原則として局所麻酔でリンパ管静脈吻合術を実施していますので、手術直後から歩くことができ、病態や術式によっては日帰り手術が可能です。
患者さまご自身やご家族に、現在のリンパ管の状態を見ていただきながら、現状のご説明をします。リンパ機能を評価することで、より適切な治療法を選択でき、治療効果が予測できます。
放射性同位体(弱い放射線の出る薬)を手や足の指のつけ根に注射すると、リンパ管の中に取り込まれていきます。これによって、全身および深部のリンパ管の走行や、残存するリンパ機能を解析することができます。インドシアニングリーンリンパ管造影法との併用で、患者さまのリンパ浮腫の状態を詳細に把握することが可能となり、病態に合わせた最善の治療法を提案することができるようになりました。注射後、時間をおきながら数回撮影することで、リンパ機能の評価を的確に行うことができます。この検査は、ヨード系造影剤(CTの造影剤)にアレルギーがある方でも受けることができます。
インドシアニングリーン(ICG)という緑色の色素を手や足の指のつけ根などに注射すると、リンパ管に取り込まれていきます。これにより、表在のリンパ管の走行や、残存するリンパ機能をリアルタイムで解析できます。
リンパシンチグラフィよりも感度が高いので、痛みや、張り感があるような早期リンパ浮腫も、確実に診断できます。
ヨード系造影剤にアレルギーがある方は、この検査はうけられません。
低侵襲医療とは、検査や治療においてできる限り患者さまの身体の負担を減らした治療法です。当院では、患者さま毎の病態に併せて、リンパ管静脈吻合術、リンパ節移植術、脂肪吸引術、象皮病根治術を選択しております。
《ナレーション和訳》
術前にインドシアニングリーン(ICG)リンパ管蛍光造影法および、皮下静脈同定装置(StatVeinTM)を用いて、リンパ管と静脈の同定を行います。その後、皮膚切開部を決定後、局所麻酔下にて手術を行います。最初に出てくる左側の白いものは外科医の人差し指です。比べてもらうとわかりますが皮膚切開幅は1-2cmで、皮下脂肪の中から集合リンパ管を見つけ出します。この白色透明の管(上)がリンパ管です。続いて皮下静脈(下)を探し出します。
リンパ管内はリンパ液で充満しており、白色です。静脈の中は血液が通っているため赤色をしています。手術用顕微鏡を用いて0.5mm前後のリンパ管と静脈を世界最小の12-0ナイロン糸を用いて吻合していきます。 糸の太さは髪の毛の10分の1程度です。4針から5針程、全周性に縫合していくことで吻合が終了します。 吻合後は、リンパ液がきちんと静脈に流れ込んでいることを確認します。 赤色だった静脈は、リンパ液が流れ込むことによって白色に変わっていきます。最後は傷を閉じて手術終了します。
(注)現在、1箇所の吻合あたり約30-40分で行っており、病態によって、吻合箇所・数は異なります。原則としてリンパ機能が低下した患者さまは吻合数が増える傾向にあります。
リンパ浮腫の合併症である蜂窩織炎についても新しい対策をおこなっています。リンパ管静脈吻合術を行うことで、約93%の患者さまで症状の改善を認め、蜂窩織炎の発生頻度は1/8に低下します。
リンパ管静脈吻合術を行うことで、96%の患者さまでリンパ浮腫に合併した痛みの改善を認めています。特に乳がん術後、婦人科癌術後のリンパ浮腫患者さまにおいて、強い痛みを主訴とする方々がいらっしゃいます。当診療科では、画像診断にてリンパ機能異常を確定診断した後、治療を開始します。必要があれば、ペインクリニックやメンタルクリニックをご紹介いたします。
陰部リンパ浮腫や、リンパ小疱、リンパ漏(皮膚や外陰部からのリンパ液の漏出)はデリケートな部分の疾患と言うこともあり、患者さまは病院などでなかなか言い出せず、放置されることが多くなっています。また、医療関係者の中でもリンパ小疱のことをよく知っている人は少なく、患者さまが相談してもなかなか解決できないこともありました。私たちのチームでは、科学的データを基に、女性医師が根治的なアプローチで陰部リンパ浮腫、リンパ小疱の治療にあたっていますので、まずはお気軽にご相談ください。リンパ小疱、リンパ漏を放置すると、蜂窩織炎を繰り返して、リンパ浮腫の悪化をきたしやすくなりますので、早めの受診をおすすめします。男性患者さまの場合は、男性医師が診療にあたります。
当診療科では、がん治療(リンパ節郭清術や、放射線治療)後のリンパ浮腫発生に対して、予防的な保存療法指導や生活指導、リンパ管静脈吻合術を行っております。治療後の一時的な浮腫の可能性もあるため、画像診断(リンパシンチグラフィ、ICGリンパ管蛍光造影検査等)で客観的な評価を行った上で、治療法を選択します。
当診療科では、リンパ外科専門医(男性医師1名、女性医師1名)および、高度なトレーニングを受けたリンパセラピスト(看護師、理学療法士、按摩マッサージ師等の医療系国家資格取得者)がチーム医療にて診療を担当し、低侵襲リンパ外科治療と、保存療法(複合的理学療法)を融合させることで、科学的データに基づき、より確実な効果が得られる治療を行っております。
役職・医師名 | 得意な分野 | 認定等 |
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医長 原 尚子 |
リンパ外科、形成外科全般 | 形成外科専門医 リンパ浮腫療法士 |
医師 三原 誠 |
リンパ外科、再建外科 組織移植、超微小外科 |
形成外科専門医 リンパ浮腫療法士 |
院長 髙戸 毅 |
再生医療 | 日本形成外科学会認定形成外科専門医 日本口腔外科学会認定口腔外科専門医・指導医 日本再生医療学会再生医療認定医 再生医療学会 副理事長 東京大学名誉教授 |
非常勤医師 河原 真理 |
JR東京総合病院 リンパ外科・再建外科では、初診患者さまの予約受付を次のとおり行います。完全予約制ですので、必ず予約をお取りいただきますよう、お願いいたします。なお、初診の方は紹介状(診療情報提供書)が必要です。また、リンパ浮腫に伴う蜂窩織炎が頻繁に起こっている場合など緊急を要する方は、かかりつけ医にご相談ください。当院での治療が必要と判断された場合は、かかりつけ医より当院にご連絡ください。
※紹介状(診療情報提供書)の提出がない場合は、保険外併用療養費として3,780円を負担いただきます。
当科の初診予約に関しましては、患者さまにお手数をおかけしてしまい、また予約を取りにくい状況となってしまっており、大変申し訳ありません。
私たちは、これまでに積み上げてきた科学的なデータをもとに、患者さま一人ひとりに合った治療をご提供できるよう、日々つとめております。ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。