2025年に100周年を迎えた
JR五日市線の終点「武蔵五日市駅」は
秋川渓谷の豊かな自然を楽しむ人たちの
拠点として、多くの人が訪れています。
キラキラと緑が潤いをたたえる初夏の
6月に開催される「秋川渓谷あじさいまつり」も人気イベントのひとつで、
あじさいの咲く美しい風景と
地域の魅力を守る人々の力によって
毎年開催されています。

株式会社do-mo CEO 高水 健さん

武蔵五日市駅の目の前にある「do-mo kitchen CANVAS」と、ロータリー沿いにある「do-mo factory blan.co」、そして多摩産材のバレルサウナが楽しめるキャンプ場「自然人村」を運営する株式会社do-moの代表を務める高水さんは、秋川渓谷あじさいまつりの実行委員もされており地域のために尽力されています。

「南沢あじさい山」など、地域を盛り上げる事業を始めたきっかけは?

父が町おこし活動をずっとやっていたことに影響されていると思っています。あきる野芸術祭などを主催していた観光協会青年部を立ち上げたのが私の父でした。地域のために汗かく姿を見てきたので、本質的なところで自分もその姿がしっくりくると感じ、あきる野市に戻ってきたんです。
最初に始めた飲食事業を通じて地域の価値を伝えたいと思い、秋川の鮎をつかった「鮎チョビ」などのメニューを作っていた時に、あじさいでお茶ができることを知り、南沢あじさい山のあじさいで作らせて欲しいと、当時86歳のちゅうさん(1人で「あじさい山」を造りあげた 故 南澤忠一さんのニックネーム)に相談しに行ったことが忠さんとの出会いで、その時に「それはいいことだけれど、自分はもう歳で管理できないから、あじさい山を続けることの方が大事」と言われ、「僕たちにあじさい山の管理をやらせてくれ」と伝えたんです。そして、あじさいの管理方法を伝授してもらうことから始めたのですが、最初の1年半くらいは朝4時に山に集合して、9時前まで剪定を習う、という生活でしたね。お茶を作りたかっただけで花に興味はなかったんですけど、忠さんに惚れ込んだことが大きかったので続けてこられました。

忠一さんも管理を引き継いでくれたことを嬉しく感じていたのでは?

  • 一緒に8年くらいやっていましたけど、褒められたことは1回もないですね(笑)
    作業には厳しいんですけど、めちゃくちゃ優しかったです。ご先祖の墓まで花で埋めたくて始めたら、「きれい」とみんなが喜んでくれるから止められなくなっちゃったって。それが、ひとつの観光地をつくったわけですよ。そんな忠さんのバイタリティや地域愛を見て、この人だったら怒られても嫌じゃないし、忠さんの思いとやってきたことをちゃんと残したいという思いです。
    忠さんがつくった観光地を持続させていくために、あじさい茶だけでなく、クラフトビールやソフトクリームなどの食の展開と、「アジサイ音楽祭」というイベントをスタートしました。それと、自然共生の新しいチャレンジとして、コンクリートの基礎を打たず無垢材を地中に埋める建築方法であじさい山の東屋を建てるなど、ただのあじさい山ではなく自然の価値を守り伝える施設を目指しています。

価値を守り伝える一環として、武蔵五日市駅からシャトルバスを運行しています。PRが進み来訪者が2倍になった時、1日400台の車がのどかな里山エリアに来るようになってしまって、それでも運営は赤字の状態だったので忠さんに「あじさい山を未来に残したいのか、儲けたいのか」と尋ねたら「長く続けたい」という返答だったので、マイカー規制にしたんです。
忠さんがいなくなってしまった後、地域の人に後ろ指をさされるような山の運営はやりたくないと感じ、「自然共生を大事にする」を一つの根幹において愛される山にするために、マイカー来場を止めたことを価値に変えるブランディングを続けています。

駅前イベント「五市マルシェ」も、電車で来る楽しみを創出してくれているように感じます。

武蔵五日市駅前にCANVASを開いた1年後にblan.coを開いたのですが、そこまで人の滞留が多くない駅前に2店舗を営業する意味は何だろう、地域のために何ができるだろうと考えました。そこで、駅前の活性化が大きなミッションと捉え、地域主体のイベントを単発ではなく定日開催で、文化、カルチャーになるようなものを作ることができたら素敵だなと思ったんです。毎月第3土曜日にコンセプトを定めて民間軸でやっていくから一緒にやりましょうと私の覚悟をJRさんに伝えて実現できたのが駅前で開催する「五市マルシェ」で、今年で5年目に突入しました。

あじさい祭りの期間中も「五市マルシェ」を開催する予定なので、一緒に楽しんで欲しいですね。 東京都心から近いエリアで自然と里山の風景がこれだけ残っているところは少なく、あきる野市の魅力だと思っています。今後は、自然共生やエコツーリズムのひとつのパワースポットとして、「自然人村」を活用した企業研修を推し進めていこうと思っています。あじさい山を散策して自然人村のサウナに泊まって、「自然の価値を体感し、持ち帰ってほしい」と思っています。

do-mo kitchen CANVAS

窓に飾られた大きなドライフラワーのリースが目をひく「do-mo kitchen CANVAS」。これは、南沢あじさい山のあじさいで作られたもの。多摩産材をつかったインテリアや、美味しい地のものなど、あきる野市の魅力を感じることができる、駅前カフェレストランへ。

ちゅういっちゃんのあじさい茶

優しい甘さが、南沢あじさい山を散策した後の体にしみわたります。ちゅういっちゃんとは、南沢あじさい山を育んだ南澤忠一さんのこと。ティーバッグも販売しているので、お土産にもぴったりです。

鮎チョビ

お土産として人気なのが「鮎チョビ」。秋川の名産である鮎の塩漬けで、塩味と苦味がクセになる美味しさです。野菜やバケットにディップして食べるのがおすすめ。店内で食べられる「鮎ちょびパスタ」は、青梅市の人気ラーメン店・五ノ神製作所の甘味のあるモチモチ麺に鮎チョビが絡み、箸が止まらなくなる一品です。

あきる野市の豊かな自然の中で育った東京都産の秋川牛を使った「秋川牛ローストビーフの焼きなす巻」など、新しい美味しさに出会えるメニューが揃っています。また、店内には大きな木のオブジェや屋根付きの半個室など、温かみのある木材がふんだんに使われています。この木材も地元産。店舗裏にある秋川木材協同組合が手掛けた「多摩産材」の多様なインテリアを楽しむことができます。

「地域の魅力の価値を上げる」。代表高水さんの想いが詰まった言葉が浸透しているdo-mo kitchen CANVASで、あきる野市への旅をより豊かなものにしてみませんか。

秋川木材協同組合 事務局長
 髙濱 謙一さん

東京都の多摩地域で生育し、その地域で生産・認証された木材が「多摩産材」です。秋川木材協同組合は、多摩産材を扱う、今年で75年の歴史を持つ協同組合として多摩地域の森林を守り育て、多摩産材の普及活動を行っている製材業者と林業者で構成された組織です。

秋川木材協同組合の事務局長となったきっかけや、取り組んでいることを教えてください。

某製紙関連会社に勤めていた時にFSC森林認証紙の国内拡販を担当していたことで、林業に興味を持ち転職したんですけど、外資木材が多いFSC森林認証紙を環境保全意識の高い企業の方に勧めた時に「国内の森をどうする気だ」と言われ、国内林業に携わりたく秋川木材協同組合に在籍する決断をしました。働くまでは、あきる野市ってどこ?という感じでしたけど(笑)

各業者で林業見学会や体験会などをやっているのですが広報が弱い気がして、それならば旅行業取扱管理者の資格を取得して、あきる野市でエコツーリズムのトータルプロデュースをやろうと。ですが、多摩産材が生まれ育つ地域にも関わらず、街の中に木の物が少ないと感じたんです。
そんな時、do-moの高水さんに共感してもらい、do-mo kitchen CANVASをはじめとするdo-moの施設に多摩産材を使ってもらったことで多くの人に知ってもらえる機会になり、駅前にも木を感じる施設もどんどん増えてきて、あきる野市の林業やエコツーリズムを徐々に知ってもらえている効果を感じています。
「多摩産材って何?多摩産材ってどんなものがあるの?多摩産材ってどんなところで買えるの?」と質問を受けることが多くなってきたので、武蔵五日市駅の北側の組合の施設で多摩産材をPRするイベントを開催したんですよ。ただ、それが失敗に終わってしまって(笑)
そのイベントに高水さんにも出てもらっていたので、「やっぱり人に来てもらうイベントを開催するなら駅前だよね」ということになり、そこから高水さん、JRさんとも協議を進めて生まれたのが「五市マルシェ」です。

「五市マルシェ」では、多摩産材をつかったワークショップを開催していて、カスタネット作りやバターナイフ作りなど、削ったり色を付けたりして楽しんでもらっています。商品は色々展開していますが、ヒノキのコースターの販売を始めました。このコースターの中には0.02kgのCO2を含んでいて、使っていただくだけで炭素固定が実現できるようになります。木は呼吸しているので無垢材の建材や家具であれば、湿度も管理できるんです。梅雨の時期は湿度を吸ってくれるし、湿度が低いときは吐いてくれる。とはいえ、環境に良いからとか、エコだからとかでは訴求がまだまだ弱いので、「暮らしの中に少しでも多摩産材を」をPRするため、暮らしに寄り添えるモノを日々考えています。

あきる野市で多摩産材を見る、知る、触れる機会は他にありますか?

「秋川渓谷 瀬音の湯」にも多摩産材を入れさせていただいていますし、武蔵五日市駅の構内、あと駅の北側にある地元食材の椀物が食べられる「椀ものや 木のか」や併設の多摩産材産直ショップ「素木家」は、秋川木材協同組合の多摩産材モデルハウスでもあります。そもそも、あきる野市の山にはスギやヒノキが沢山あるのですが、これも多摩産材です。南沢あじさい山もそうですけど、山自体を楽しんでいただくのも、多摩産材を知るひとつの機会ですね。南澤さんも林業をされていたので秋川木材協同組合員だったんですよ。木もあじさいも、両方を大切に育てられていたんだと思います。
昨年度、公益財団法人東京観光財団の事業で、あきる野市内の「多摩フォレストツーリズム」を個人事業にて担当した際、いつもは近隣の檜原村や青梅市など複数の市町村も含めて進めていますが、今回はすべてあきる野市内で完結できたんです。このようなツアーに参加して東京の森、東京の木を知ってもらうことで東京生まれの多摩産材を使ってもらいたいですね。スギ・ヒノキで構成する人工林を循環させていくことが東京の森、東京の観光を創っていくと思っているので、そういう取り組みを今後も続けていきます。