対処すべき課題
当連結会計年度において発生させた一連の輸送トラブルにより、お客さまに多大なご心配とご迷惑をおかけしたこと、また、ステークホルダーの信頼を損なう不適切事象をグループ内で連続して発生させたことについて、心より深くお詫び申し上げます。安全・安定輸送に対する信頼、グループのガバナンスに対する信頼、この2つの信頼を揺るがす事態を引き起こしてしまったことを重く受け止めています。信頼が当社グループの最大の財産であり、成長の礎であることをグループ社員一人ひとりが改めて胸に刻み込み、一連の事象により大きく損なわれた信頼を、グループ一丸となって取り戻していきます。
当社グループは、「当たり前を超えていく。」をキーワードに、グループの持続的成長をステージアップするため、2025年7月にグループ経営ビジョン「勇翔2034」を発表しました。
「勇翔2034」においても「安全」がグループ経営のトッププライオリティであることに変わりはありません。安全とコンプライアンスを意識した「健全な業務遂行」により、鉄道を中心としたモビリティと生活ソリューションの二軸それぞれの成長と、二軸を有するからこそ可能となる様々なシナジーを創出し、「安心」と「感動」をお届けすることで、すべての人の心の豊かさを実現していきます。
当社グループの商品・サービスは毎日のべ3,500万人のお客さまにご利用いただいています。スピード感と構想力をもち、「ヒト起点のマーケットイン」で商品やサービスを常にバリューアップし、連結キャッシュ・フローの最大化に努めていきます。
また、2026年7月にはそれぞれの地域のマーケットやお客さまのご利用状況などを踏まえたより細やかでスピード感のある36の事業本部での事業運営体制に改正し、これまで以上に「お客さま第一」「地域密着」の事業運営を実現するとともに、社員の働き方を変革していきます。
「勇翔2034」で創造する価値としてライフスタイル・トランスフォーメーション(LX)を掲げ、社会課題や潜在ニーズに向き合い生活様式を革新し、思いやりとワクワクにあふれる社会を創ります。多くのステークホルダーのご期待に応え、社会の進運を支える「志の高い企業グループ」として持続的な成長を実現していきます。
「安全」がトッププライオリティ
「安全」はグループ経営のトッププライオリティです。当社グループの不変の使命である「究極の安全」を追求し、不断に安全レベルを向上させていきます。
当連結会計年度においては2025年5月に山手線新橋駅構内で架線断線に伴う輸送障害を、6月には山形新幹線E8系で車両故障を発生させたほか、2026年1月に山手線・京浜東北線・常磐線において、翌2月には宇都宮線においてそれぞれ停電による大規模輸送トラブルを発生させました。また、同月に京葉線八丁堀駅でエスカレーター火災を発生させ、3月には中央本線において走行中の車両のドアが開くという事象を発生させました。一連の輸送トラブルにより、お客さまに多大なご心配とご迷惑をおかけしました。
今一度すべての業務を抜本的に見直し、安全・安定輸送の強化向上に取り組みます。特に鉄道のシステムは、車両・線路・電気など様々な設備や業務が相互に連関しているため、輸送トラブルの発生防止と対応力向上に向け、業務分野をまたがる総合的な知識能力や技術力を高めていく必要があります。また、AIやドローンなど先端技術の導入にも努めていきます。
具体的には、安全の最後の砦はヒトであることを踏まえて、「①安全・安定輸送に関する業務フロー(作業手順)の見直し」「②異常時の対応力向上」「③検査や点検のレベルアップ」「④設備メンテナンスや事故復旧にあたる第一線社員の技術力の向上・強化」「⑤設備の維持管理に関わる修繕費の増額」「⑥グループ会社、パートナー会社の体制・技術力の維持」に取り組んでいきます。
「究極の安全」の追求は鉄道を中心としたモビリティ、生活ソリューションに区別なく、共通の課題です。お客さまに安心してご利用いただけるサービスを提供するため、グループ一体となって取り組んでいきます。
グループ全体のガバナンスの改善と強化に向けた取組み
当社グループは2024年から2025年にかけて、中央省庁等向けの委託事業及び補助事業に関する不正な人件費請求をはじめ、輪軸組立作業における圧入力値の不適切事象、独占禁止法に抵触するおそれのある行為に対する公正取引委員会からの警告等、ステークホルダーの信頼を損なう事象を連続して発生させました。これらの事態を受けて、経営への信頼を取り戻すべく、2025年7月1日に外部有識者を招いた「グループ全体のガバナンスの改善と強化に向けた有識者委員会」を設置しました。有識者委員会が取りまとめた報告書及び取締役会における議論を踏まえ、具体的な改善策を2026年3月18日に公表しました。グループにおける内部統制の基本的な考え方を更新するとともに、「健全な企業風土」、「必要な体制やルール」、「活発なコミュニケーション」をベースにグループガバナンスの確立に向けた改善策を実行することで、「勇翔2034」を推進し新たな事業領域に取り組んでいく基盤を構築します。
すべての事業の基盤となる信頼
当社グループでは、「勇翔2034」において、「信頼」をすべての事業の基盤と位置づけています。一連の輸送トラブル、複数の不適切事象といった事業の基盤が崩壊しかねない事象を発生させたことを厳しい教訓と捉え、コンプライアンスの確保とグループ全体のガバナンスの改善と強化に継続して取り組みます。また、先人が培ってきた経験・技術を継承するだけでなく、最先端の技術力で社会を変えていく真の技術サービス産業をめざすことで、ステークホルダーの期待に応え、すべての事業の基盤である「信頼」をより強固なものにしていきます。
モビリティ(運輸事業)
当社グループは、2025年9月にモビリティとして初となる中長期成長戦略「PRIDE & INTEGRITY」を発表しました。人手不足やAIに象徴される技術の急速な進化など、現在、日本や世界が直面している多岐にわたる大きな変化に正面から向き合い、成長を続けます。環境に優しく時間に正確で大量高速輸送が可能な鉄道と、駅から目的地まで柔軟に移動できる輸送モードを最適な形で組み合わせる「モビリティのベストミックス」を主体となって実現し、多様化するお客さまの移動ニーズにきめ細かくお応えすることで、すべての人の心豊かな生活を実現します。
10年後へのアプローチとして、輸送障害の防止と発生時の対応力強化により輸送品質を高めるとともに、新幹線車両増などによりさらなる輸送力強化を推進します。加えて、新たな夜行特急列車など移動が楽しくなる付加価値の高い移動空間やコンサートの戦略的誘致などによる魅力的な目的地の創出、インバウンド向けプロモーションの強化などにより、交流人口の拡大を図ります。さらに、モビリティの資産である鉄道用地を再編・開発し、生活ソリューションとのシナジーにより地域の拠点と新たな流動を創造することで、収益力を向上させていきます。
また、人口減少や少子高齢化に加え、物価高騰など鉄道事業の収益確保が厳しさを増すなか、多様化するお客さまニーズや鉄道に求められる社会的役割を果たすための設備投資や修繕などに必要な資金を安定的に確保することが困難な状況となっていることから、会社発足以来、消費税転嫁やバリアフリー料金の導入等を除き、実質的に初めてとなる運賃改定を2026年3月14日に実施しました。ご利用いただく多くのお客さまにご負担をお願いすることとなりますが、ホームドア整備や自然災害対策、ターミナル駅の改良やシームレスな移動の実現など、安全やサービスを向上させるとともに、社会課題を解決していきます。また、シンプルかつ柔軟な運賃料金制度の実現に向けて、引き続き国に要望していきます。
さらに、地方ローカル線については、地域の関係者と連携した利用促進の取組みに加え、設備のスリム化、運行形態の見直しなどによる運営の効率化を推進する一方、引き続き沿線自治体などと協議を進め、地域とともに利便性・持続可能性の高い交通体系を実現していきます。
また、当社グループでは、鉄道業界全体のサステナブルな事業運営に貢献するため、他の鉄道事業者にも参画を呼び掛け、技術や部品の共通化を実現するとともに、一般社団法人海外鉄道技術協力協会(JARTS)の協力をいただき、特定技能人材育成研修をスタートさせました。本研修をはじめ、当社グループ及び鉄道業界の未来を創造する総合的な人材育成プログラムを展開していきます。
生活ソリューション(流通・サービス事業、不動産・ホテル事業、その他)
当社グループは、2024年6月に中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」を策定しました。生活ソリューションにおいては「Beyond the Border」でめざす世界を具体化し、グループの豊富なアセットや、リアルとデジタルの顧客接点を活かし、既存事業の変革や新たな事業展開を推進します。また、「2033年度までの生活ソリューションの収益・利益を倍増(2023年度比)」という目標を2年前倒して実現し、さらに営業収益1,500億円、営業利益1,000億円の増をめざしていきます。
流通・サービス事業では、コンプライアンスと安全への確かな取組みを通じてお客さまの信頼を築き、「安心」を感じていただける商品やサービスを提供していきます。多様なニーズに応えるため、「ヒト起点のマーケットイン」を推進し、「JRE MALL」やデータに基づき最適な時間・場所で広告配信が可能なプラットフォーム「MASTRUM(マストラム)」などのデジタルサービスにより顧客接点を拡大し、新たなコミュニケーションを構築します。また、「NewDays」の鉄道他社等、交通結節点への出店や、スマートロッカー「マルチエキューブ」の当社グループ用地外への設置、列車荷物輸送サービス「はこビュン」のネットワーク拡大・サービス拡充などにより収益拡大を図ります。さらに、Beyond Stations構想に基づきイマーシブ空間やスマート健康ステーションの拡大等を通じて、駅の価値向上を進めます。
不動産・ホテル事業においては、当社グループの強みである利便性の高い立地や豊富なアセットを活かし、特に「成長のエンジン」に位置づけている不動産事業の成長をめざします。2026年4月15日に伊藤忠グループとの不動産事業分野における統合契約を締結しました。統合会社において両者の強みを掛け合わせ、今後5年間で売上2,500億円規模をめざし、不動産事業を飛躍的に成長させていきます。引き続き、物件の取得・売却のスピードと規模を拡大し、不動産回転型ビジネスを加速させ、不動産ファンド事業における資産運用規模を2031年度までに1.2兆円へ拡大するとともに、6,000億円超の不動産販売営業利益を創出していきます。また、「TAKANAWA GATEWAYCITY」グランドオープン及び「OIMACHI TRACKS」のまちびらきなど、当社グループが浜松町駅から大井町駅で展開する「広域品川圏(Greater Shinagawa)」の共創まちづくりが本格始動しました。「広域品川圏」を都市生活のイノベーションが生まれる先進エリアと捉え、地域、企業、大学等の様々な関係者と共創して、先進性・エリア価値向上に資する取組みを展開していきます。さらに、新宿駅周辺や渋谷駅街区の大規模再開発など先進的かつ魅力的な街づくりを推進します。
2024年12月には「Suicaの当たり前を超えます~Suica Renaissance~」を公表しました。Suicaを「移動と少額決済のデバイス」から「生活のデバイス」へと進化させ、あらゆるビジネスの基盤として二軸経営によるシナジーを発揮していきます。2025年2月には分散していたIDをJRE IDに統合する取組みをスタートさせました。また、タッチ不要のウォークスルー改札を2027年春に広域品川圏に導入するほか、「上限額(2万円)」や「事前チャージ」という現在のSuicaの当たり前を超えるコード決済サービス「teppay」を2025年11月に発表し、2026年秋より提供を開始する予定です。さらに、2025年12月にはご当地Suica(モバイルSuicaとマイナンバーカードを連携することにより、「Suica」と「MaaS(Mobility as a Service)」と「生活サービス」を一体化したサービス)を2027年春に群馬県と宮城県へ導入することを発表しました。今後両県で磨いたモデルを各地へ広げ、地方創生を実現していきます。
サステナビリティ
グループ理念がめざす「すべての人の心豊かな生活の実現」に向け、サステナビリティをグループ経営の重要な方針と位置づけ、社会的価値と経済的価値の創出をめざします。事業活動で得られた価値を、お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さま、社員と家族の幸福の実現に還元するとともにグループの成長にも振り向ける、「四方良しの経営」を推進していきます。
環境(E)については、2020年度に公表した環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」に掲げる2050年度のCO₂排出量「実質ゼロ」の達成に向け、2035年度、2040年度の中間目標を新たに設定しました。引き続きゼロカーボンに向けた挑戦を続け、持続可能な社会の実現をめざして新たな価値をお届けしていきます。さらに、使用電力量の削減を目的とした在来線車両向け次世代車両駆動用インバータ装置の山手線車両への試験的搭載や水素ハイブリッド電車「HYBARI」についての実証実験を進め、2030年度の営業運転開始をめざします。
社会(S)については、伴走型地域づくり、DXを通じた社会課題の解決による地方創生を実現するとともに、ホスピタリティマインドのある社員の育成、障がい当事者との対話を通じたサービス品質の改善、パラスポーツの体験・支援を通じて共生社会への理解を促進し、お客さまや地域の皆さまとともに「心のバリアフリー」を推進します。また、2025年12月には、日本電気株式会社が運営するラグビーチーム「NECグリーンロケッツ東葛」を2026年7月に当社が引き継ぐことを発表しました。企業スポーツの推進を通じて健全な人材育成、競技人口のすそ野の拡大、地域の活力の醸成など、社会課題の解決に取り組みます。
企業統治(G)については、グループ全体のガバナンスの改善と強化に向けた取組みに加え、取締役会規則等の改正を行い、中長期的な経営戦略に関する議論の活性化や、業務執行状況のモニタリング強化、業務執行の迅速化を行っています。今後もコーポレート・ガバナンスを一層充実させ、さらなる企業価値向上をめざします。
成長の基盤となる戦略の推進
「勇翔2034」の実現に向け、その成長の基盤となる安全、CX、人材、イノベーション、財務・投資の戦略を策定し、グループ一体で取り組んでいきます。
安全については、経営のトッププライオリティとして、「グループ安全計画2028」のブラッシュアップに取り組みます。一連の輸送トラブルを踏まえ、2026年度の設備の維持管理に関わる修繕費を増額し、2026年度末までにコロナ期の影響をすべて取り戻すべく、交換・修繕を実施します。また、衝突や脱線防止、ホームドア整備を進めるとともに、倒木・倒竹などの自然災害に対するリスクの低減に向けて安全設備への計画的な投資を行います。さらに、当社グループ・パートナー会社・協力会社が一体となり構築しているJES-Net(JR East Safety Network)において、モビリティと生活ソリューションそれぞれの分科を設置し、安全における価値観・方向性の一致、連携強化、安全の取組みの推進を通じ、グループ全体の安全レベルを向上させていきます。
CX(Customer eXperience)については、グループ全体でめざすサービス品質の方向性をまとめた「グループCX戦略ビジョン2030」を策定しました。お客さまや地域の皆さまから期待されるサービス品質のレベルは日々変化し高まっているため、「お客さま体験価値ファースト」を掲げてグループ全体の力を結集し、お客さまとの接点を可視化し、ニーズを分析してサービスを改善していきます。さらに、業務フロー(作業手順)の見直しや異常時の対応力向上(実践的な訓練、わかりやすい情報提供など)を通じた安全・安定輸送の強化向上など、お客さまとのすべての接点において安心・感動をお届けする取組みを推進していきます。
人材については、2025年5月に発表した「人事・賃金制度の改正」と「事業運営体制の再編」を「勇翔2034」を推進する両輪に位置づけ、社員の挑戦と活躍を後押ししていきます。「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」と「健康経営」を人材戦略の土台と位置づけ、「多様性」「革新性」「柔軟性」の3つの基本方針を推進することで、社員と会社の新たなエンゲージメントを創出していきます。また、すべての技術分野の採用を従来計画よりさらに150名拡大するとともに、多様な人材が活躍できる企業文化を創造することで、グループ全体の生産性を向上させ、モビリティと生活ソリューションの二軸経営を推進します。
イノベーションについては、「技術サービス企業グループ」としてさらなる高みをめざし、業務へのAIの導入や水素の活用を加速させるとともに、フュージョン等の新エネルギー、宇宙を含む広いフィールドでの技術革新を通じて、持続可能な未来を拓きます。2026年度を「AI・DX元年」と位置づけ、取組みを進めます。
財務・投資については、2034年度営業収益5兆円に向けた成長軌道を確立し、「勇翔2034」の実現に向けた連結キャッシュ・フローの最大化に取り組みます。また、強靭でサステナブルな資材調達体制の構築や、適正かつ確実な決算の遂行とAI等の導入による業務変革を進めます。さらに、「事業運営体制の再編」を通じて、各事業本部における自律的な経営に取り組みます。
これらの戦略を着実に推進することで、ライフスタイル・トランスフォーメーション(LX)という新たな価値の創造に取り組んでいきます。
経営のモードを本格攻勢に切り替え、「すべての人の心豊かな生活」に向けて、「勇翔2034」を本格始動させていきます。