酒居知史
(千葉ロッテマリーンズ)
&
坂口裕
(オービックシーガルズ)
6チームの注目選手や共通点を持つ選手・スタッフが、競技の枠を越えて様々なテーマでトークを行う、『京葉線プラス』限定のスペシャル企画「KEIYO TEAM6 クロストーク」。
第9回は真逆とも言えるポジションで活躍する千葉ロッテマリーンズの酒居知史選手(投手)とオービックシーガルズの坂口裕選手(オフェンシブライン)のお話を伺いました。
※このインタビューは2019年10月に実施されました。
──それぞれ、お互いの競技についてどのようなイメージをお持ちですか?
坂口:野球は東京ドームや横浜スタジアムで何度か観戦したことがあります。ただ、自分がやるとなると・・こどもの頃なんか、身体が大きかったので「当たれば飛ぶだろ!」と言われながら全く当たらないことも多かったです(笑)。
酒居:高校にアメフト部があったので、練習する姿をよく見ていました。最近はテレビでNFL(National Football League)を目にすることがありますが、たくさんのお客さんが入っていて、演出とか含めてハデな環境で試合が行われている印象があります。
坂口:よく、アメフトとラグビーはなにが違うの? と聞かれますが、攻撃・守備の機会が分かれていて、回数も決められている。ラグビーと似ていると思われがちですが、野球と似ているスポーツだと例えるときがあります。野球もアメフトもアメリカン・スポーツです。そういうスポーツが好きな人たちに好まれる傾向があるのだと思います。
酒居:もしボクがアメフトをプレーしたら、たぶん当たり負けしますね。コントロールだったら自信があるので、やるとしたらクォーターバックでしょうか。アメフトのなかで花形のポジションですよね。コツさえ掴んだら……。でも、俊敏性がないので厳しいかな。
坂口:ボクのポジション(オフェンシブライン)は、ボールに触ることがほぼありません。というか、触ってはいけないポジションで、反則を取られます。
酒居:え!全くボールに触れないんですか?!
坂口:そうなんですよ。だからもう、相撲のぶつかり稽古や格闘技をやっている感じですよ。ずっと相手とボディコンタクトしているポジションです。ただ、ファンブルなどがあってフリーボールになったときは、拾うことができます。過去にフリーボールを持ったときは、すぐに狩られて終わってしまいましたが(笑)。
酒居:そういうのはまさに、ボクが知っているアメフトですね!投げる人、クォーターバックを何人かで守っているイメージです。あの守っている人が、坂口さんなんですね。かっこいい!
──現在、お二人は各競技の“トップ”で活躍されていますが、酒居選手はプロ入りを、坂口選手はXリーグでのプレーを意識したのはいつ頃だったのでしょうか?
酒居:小学生のころから『プロ野球選手になる』という考えは持っていましたが、現実がわかっているタイプでした。高校生のときはそんなにやれている選手ではなかったし、大学では2つ上の世代にプロ入りした選手が2名いて、そのときにプロになれるのはこういう人たちなんだ、自分の実力はまだまだだなと感じていたので、社会人へと進みました。そこで、プロ入りするなら2年間で勝負すると決めていました。2年間で結果を残し、プロになれるならなろうと。そう考えると、プロになることを現実的に意識したのは社会人になってからですね。
坂口:なぜ、2年間だったのですか?
酒居:それ以上遅くプロ入りしても、競技期間はたぶん短くなります。長くプロでやるためには、2年のうちに行きたいと思っていました。
坂口:なるほど。ボクがアメフトをはじめたのは高校生のときです。当時流行っていたアメフトを舞台にしたアイシールド21という漫画に憧れたのもありますし、中学時代のサッカー部の先輩が高校でアメフト部のキャプテンを務めていました。さらには、ボクは小学校、中学校と付属学校だったのですが、そこにすごく身体が大きい先輩がいたんです。相手もボクのことをすごく身体が大きい後輩がいるなと思っていたらしいんですが(笑)。高校に進学してその方と出会ったときに、お互いに『アッ!』となって、アメフト部に誘われました。その先輩に憧れてずっとついていった部分があります。もう引退されたのですが、富士通フロンティアーズの海津裕太さんという方です。アメフトは高校からはじめるのがほとんどで、同じスタート位置から頑張れば頑張るほど上にいけます。代表に選ばれるなどだんだん楽しくなっていって、大学、社会人と続けてきた感じです。
──野球、アメフトを続けていく過程で、『辞めたい』と思ったこともあったのでしょうか?
酒居:高校生のときに練習内容にも納得できず、試合にも出られず、何を目的に野球をやっているのかわからなくなり『辞めたい』と親に伝えたことがあります。でも、そのときに悩んだ結果が「自分のためにやるんだ」というところでした。その答えが出てからは野球の見方が変わりました。でもその後も、甲子園が近づいてきても試合に出られずにいたので、監督に『投げさせてください』と直訴しました。その後投げさせたもらったときは『とにかく自分のために』と思って投げました。そして、良い結果が出ました。そのときに、すごく考え方が変わりました。いま振り返ってみると、自分から行動を起こしたのが良かったのかなと思います。
坂口:その都度カベにぶち当たってきましたが、『辞めたい』と思ったことはないです。人によると思うのですが、ボクはどこかで鼻を折られたほうがいいみたいです。
──それぞれ、プロ入り後、Xリーグ入り後に感じた難しさについて教えてください。
酒居:プロ入りしたときは、上には上がいるなと思いました。同時に、ここで活躍するんだ。もっと上のポジションに行くんだという明確な目標ができました。もっと先、上の世界を見てみたい気持ちがあります。違う景色を見たい。すでにそういう景色を知っているチームメイトと話しをするなかで、実際に経験してみないとわからないのかなという感覚をいまは得ています。
坂口:野球選手が感じる難しさとは違うと思いますが、社会人になったときに自分のレベルを痛感しました。同じポジションの選手が何人か引退したタイミングだったので実力が伴わない1年目から試合に出させてもらったときに、当たり前のように外国籍選手がいる。高校生の時にU19日本代表に選ばれ、大学ではベスト11に選ばれ調子に乗っていたけれども、それは自分よりも身体の小さい日本人と戦っていたからだった。これまでは手を伸ばせば押さえられていたのに、Xリーグでは感覚外のところから手が伸びてくる。そういう相手とどう戦うかは、すごく考えました。メンタルに関しても、一度やられても、次はやってやるぞという気持ちで常に臨むようにしています。
──日々の生活のなかで、プロ野球選手はどれぐらいの時間を野球に費やしているのですか?また、Xリーグでプレーする社会人アメフト選手はどういうサイクルで練習しているのですか?
酒居:球団から支給されているタブレットに相手チームのデータが入っています。ボクも個人的にけっこうデータを取っていて、データは100%の情報ではないとわかっていますが、どんなボールを投げるにしても、データを元に自信を持ってその一球を投げることができます。迷いなく投げられるという意味で、データはすごく重要です。調子が良いときはなにも考えずに抑えられたりしますが、調子が悪いときはデータが生きてきたりします。また、ピッチャーはカベに向かって投げているわけではなく、キャッチャーがいます。キャッチャーの要求とボクの考えがマッチしたときはリズムが良いですね。こうしたことを考えると、練習はもちろん、データを頭に入れることはとても大事で、シーズン中に限らず、シーズン前もけっこう時間を使っています。
坂口:アメフトの場合は仕事をしながらなので、チームで集まるのは基本的に週末の2日間です。ポジションごとの分業制になっていて、その他にオフェンス別、ディフェンス別の集まりがあります。たとえば、オフェンスは水曜日の夜に19時から都内に集まってミーティングしよう、とかですね。また、選手たちは個々にウェイトトレーニングなどに取り組んでいて、ボクであれば週に2回は平日の仕事前、仕事後に身体を鍛えています。VTRのチェックも大事なので、寝る前に映像を見る時間を設けています。
──せっかくの機会なので、お互いになにか聞いてみたいことはありますか?
坂口:マウンドに立つときの心持ちを聞いてみたいです!ここは絶対に抑えないといけないというシーンがありますよね。選手生活のなかでは、やられたこと、打たれたことがあると思います。そうしたなか、どういったメンタルで投げているのですか? 過去に打たれたことはぜんぜん気にしないのでしょうか? または、もっと違うメンタルなのか……。ぜひお聞きしたいです。
酒居:中継ぎを務めた今シーズンは、そういう場面が多々ありました。基本的には、試合の流れをあまり気にせずにマウンドに立つのが一番だと思っています。技術は瞬間的にレベルアップするわけではないのでその場ではもうどうしようもないので、とにかく高いモチベーションを維持することを考えます。たとえば、『ここを抑えたら給料が上がるぞ!』とかですね。
坂口:なるほど。それは、モチベーションが上がりますね(笑)。
酒居:実際には、いろいろと考えることがあります。試合状況、ランナーの有無、守備陣の位置取り、バッターの特長など……。そうしたことを冷静に考えつつ、ベストパフォーマンスをするために高いモチベーションを保つことが大事だと思っています。過去にやられた記憶については、あまり考えないというか、ボクはあまり落ち込まない。もちろん悔しい気持ちはあるのですが、それに固執はしないです。
坂口:そうなんですよ。やられると『しまった』と思うときがありますが、アメフトはプレーが続きます。大事なのは、やられても次へと切り換えられるかどうかです。あと、クォーターバックやランニングバックを守る立場のボクが目立つときは、だいたいやられているときです。9回裏2アウト満塁のような状況だと相手のディフェンス陣が自分のところを思い切り潰しにくるので、ものすごく緊張感があります。だからこそ、メンタル面が大事なのかなと思ってお聞きしました。
酒居:坂口さんは『クォーターバックを守るぞ』という気持ちでプレーされているのですか? ラグビーのW杯を見ていると、トライした人、キックで得点した人たちがよくTVに映ります。ボクはスクラムを組んでいる人、身体の大きい人たちが好きなんです。坂口さんは投げる選手を守っていますよね。個人的に、ピッチャーの真逆ではないのかなと思いました。マウンド上でのピッチャーは、自分さえ良ければいいという考えになりがちです。実際、そういう選手が多いと思います。基本的に、バッターを抑えるために投げているので。だから、坂口さんがプレーのひとつひとつをどういった考え方でやっているのかすごく気になります。
坂口:うれしいですね、そういう視点で見ていただくと。われわれのポジションは、『縁の下の力持ち』という言われ方をします。モチベーションとなるのは、ひとつは感謝の言葉を伝えられたときですね。身体を張ってコースを空けて、そこを走り抜けてタッチダウンが決まる。そのときに、『ありがとう。お前らのおかげだ』と言われれば気持ちが高まります。でも、アメフトを観戦した一般的な感想として、『クォーターバックかっこいい』『レシーバーすごいね』となりがちです。ボクらのポジションは本当に目立たないですが、すごく大事です。だから、感謝や『ナイスブロック!』の掛け声とか、そういうのがボクらのやり甲斐につながっています。
──ファンの声援がご自身に与えている影響について教えてください。
酒居:元気が出る応援、後押ししてくれる声援が聞こえたときは、もちろんボクにとってプラスになっています。一方で、プロの世界なので結果が出ていないときは厳しい言葉をかけられるときもあります。中継ぎで登板するときはリリーフカーに乗ってマウンドに向かうのですが、そのときにキツイ言葉が聞こえるときもありますが、それもまた力になって『よし、抑えてやる』という気持ちでマウンドに立っています。抑えたあとの歓声、勝利したあとの歓声は、本当に気持ちがいいです。
坂口:試合後に声をかけていただくことが多く、非常にありがたく感じています。モチベーション映像というのがあるのですが、ボクは自分たちがプレーしているシーン、タッチダウンを決めて喜んでいるシーン以上に、ファンの方々が盛り上がっている光景を見ると心が震えるものがあります。ああ、一緒に戦っているのだなと実感できます。先日、第3節の東京ガス戦が習志野市の第一カッターフィールドで開催されたのですが、地元の方がいっぱい集まって応援してくれました。“熱”を肌で感じることで、本当に力になって勝利することができました(62-7で大勝)。これからも一緒に勝ちたいという気持ちが強いです。
──それぞれ、来シーズン、今シーズンの意気込みをお願いします。
酒居:今シーズンは中継ぎとしてチームが勝つときになかなか投げられなかったので、来シーズンはチームが勝っているときに投げたいというのが一番です。もし、先発にまわるならば、10勝はしたいなと思っています。
坂口:日本一になりたいですね。今シーズンが折り返しになったのですが、これから強いチームとの連戦になります。まず、11月30日関西でパナソニックインパルスという強いチームと対戦(14‐24で惜敗)します。そこで結果を出し、その後も一戦一戦を大切に戦い、日本一を目指します。
大阪府出身
178cm/80kg
1993年1月2日生 26歳
右投げ右打ち/龍谷大平安高(甲)―大阪体育大学―大阪ガスー千葉ロッテ(2016ドラフト2位)
ルーキーイヤーから2年間は先発として活躍。3年目の今年は中継ぎとして開幕から54試合に登板。シーズンを通してブルペンを支え、チームに貢献した。
神奈川県出身
190cm/125kg
1991年10月2日生 28歳
横須賀学院高校―立命館大学―オービックシーガルズ
高校生からアメフトを始め、2年時にU-19日本代表としてプレー。その後立命館大学へ進学し、1年時に甲子園ボウルを制覇し大学日本一。2014年にオービックシーガルズに加入し2016年は副将、オフェンスリーダーを務めた。日本を代表するOLとしてチームで大きな存在感を示している。
取材・文 飯塚健司(フリーランスライター)