KEIYO TEAM6 クロストーク Vol.11

ホセ マヌエル ララ アカデミーダイレクター(ジェフユナイテッド市原・千葉/サッカー)&アルベルト リケル監督(バルドラール浦安/フットサル)

ホセ マヌエル ララ
(ジェフユナイテッド市原・千葉)

&

アルベルト リケル
(バルドラール浦安)

6チームの注目選手や共通点を持つ選手・スタッフが、競技の枠を越えて様々なテーマでトークを行う、『京葉線プラス』限定のスペシャル企画「KEIYO TEAM6 クロストーク」。
第11回はスペイン人指導者での対談。フットボールファミリーであるサッカーとフットサルの指導者に日本での指導についてのお話を伺いました。
※このインタビューは2020年2月に実施されました。

マドリード出身の両者が指導者になるまで

──お二人には不思議な縁があったようですね?

ホセ マヌエル ララ(以下ホセ):知り合ったのは先程ですが、共通の場所、共通の知人がいました。リケルさんは私の出身地(マドリード)に存在するRedislogar Cotransaで10代のころにフットサル選手としてデビューしています。Redislogar Cotransaが好きでよく観戦に行っていましたが、4歳差のリケルさんが当時プレーしていました。

アルベルト リケル(以下リケル):私もマドリード出身で、1992-1994の期間をRedislogar Cotransaでプレーしていました。このチームにはスペインでトップレベルの選手たちが所属していて、リーグで優勝争いをする常連でした。

ホセ:すごく強いチームでしたね。フットサルはテレビ中継もされていて、有名選手がいてお気に入りのチームでした。本当によく観に行っていました。
リケルさんはタイトルもずいぶん獲っていると聞きました。

リケル:その後に他チームへ移籍しましたが、そうですね、私はその時スペイン人のフットサル選手が穫ることのできるすべてのタイトルをチームや代表で獲得しました。その頃は代表でもすごく恵まれた世代でしたので、欧州王者になり、フットサルW杯も優勝して世界一にもなりました。スペインの国内リーグはとてもレベルが高く、いまも昔も各国代表の選手たちがプレーしています。

──なぜ指導者になったのでしょうか?

ホセ:地元クラブでプレーしている17歳のときに、足首とヒザを痛めました。なんとか現役を続けていましたが、20歳になったときに引退を決断しました。ただ、サッカーへの情熱は失われていなかったので、今度は指導者として上を目指そうと考えました。

リケル:若いころはとにかく自分がプレーするだけでしたが、経験を重ねるに連れて、いろいろな状況において監督と解決策を話し合う機会が増えていきました。クリニックを開催する機会も増え、徐々に指導者の道を歩むことを考えるようになっていきました。

ホセ:私はずっと育成年代の指導を続けていますが、リケルさんもユースチームの監督を務めた経験がありますね。それは、どのような狙いがあったのでしょうか?

リケル:現役を引退した直後は、当たり前ですがまだ指導者として十分な知識がありませんでした。インテルモビスターというスペイン国内の強豪クラブのユース監督を務めないかというオファーがあったので、まずはそこからはじめようと決断しました。その後、イングランド1部のバク・ユナイテッドのトップチームで監督を務めるなど、少しずつ経験を積んできました。

ホセ:プロの世界は結果を求められるので、各種の競争があります。一方、育成の世界は選手を育てるのが第一です。私はラージョバジェカーノ、レアルマドリード、ニューヨークシティ(アメリカ)で、いずれもアカデミーで仕事をしてきました。どうやったらトップチームで活躍する選手を輩出できるか?これはクラブにとって重要なポイントであり、私はこの役割が好きになっていきました。

日本人選手の特長。指導するうえで苦戦したこと

──海外での経験を通じて、どのようなことを学んできましたか?

リケル:現役時代も含めると、スペイン、ロシア、ベトナム、イングランド、そして日本。5か国でフットサルに関わってきました。どの国でも大切だと感じたのは、適応能力です。文化や教育制度が違えば、その国で暮らす人々の「個性」も違ってきます。スポーツ選手においてはそれがプレースタイルにつながるので、ぞれぞれの国に応じたフレキシブルな対応が必要です。

ホセ:サッカーの育成年代は、国によってリーグ戦の構成が異なります。スペインでは毎週末にリーグ戦があり、そこに向けた準備をすることで育成を行っています。アメリカは午前、午後の2部練習が中心でした。ここ日本ではリーグ戦、カップ戦が特定の時期に行われていますが、絶対的な試合数が少ないです。国によって公式戦の重要度、準備の方法が違います。スペインで当たり前にやってきたことでも、柔軟に変化させていかないといけない。国によって対応を変えなければならないという部分は、私も学んできました。

リケル:結果、指導者として、人間として成長できているのではないかと思っています。ただ、家族や友だちと一緒にいられないのは辛いです(笑)。ホセさんは私よりも長く日本で仕事していますが、難しいと感じていることはありますか?

ホセ:ジェフ千葉を“育成のクラブ”にしたいと思っていますが、日本では選手の育成ではなく、試合結果をすごく重視しているチームがあります。われわれはトップチームでプレーする選手を育てるべく、育成にとって一番よい方法で毎日の練習に取り組んでいます。なぜなら、結果を求めすぎると育成とは違った方向へ進んでしまうからです。

リケル:なるほど、そうなのですね。私が感じたのは、日本人選手は非常に教育されていて、成長したいという意欲に溢れています。学ぶ姿勢があり、技術力が高く、コーディネーション能力(運動神経)も高い。戦術理解度もあると思います。一方で、プロの世界で戦い、勝利するためにはさらなる能力が必要だと感じています。

ホセ:なにを言いたいか、わかる気がします。

リケル:個々の選手たちにもっと柔軟な判断をしてほしい。勝負に勝つためには、ときに誰かに指示をしてもらうよりも前に自分で素早く判断をすることなども必要です。日本人選手は殊更に“いい子”な面があって、激しく身体を当てるべき状況でもきれいにプレーしてしまう。状況に応じて勝つための判断を瞬時に下す──。こうした部分に改善点があります。

ホセ:日本という文化、教育制度のなかで育ってきた結果なのだと思います。決して悪いことではなく、むしろ良いところなのですよね。ただ、レベルが高くなればなるほど、日本ではミスをしてはいけなくなってきます。そうではなく、ミスを怖がらずにプレーする環境を作らないと、チャレンジできない習慣が身についてしまうと思います。

リケル:サッカーもフットサルも判断するスポーツで、ミスが起きるもの。トップレベルの選手でもミスはします。“ミスするのが恐い”というハードルを越えて、チャレンジすることが良い選手になる第一歩です。バルドラール浦安の監督に就任してからの2年間、限られた練習時間のなかで“ミスを恐れない”ということを習慣化するために、忍耐強く、情熱を持って指導してきました。

──ジェフ千葉のアカデミー、バルドラール浦安の選手たちの変化はどうなのでしょうか?

ホセ:日本に来て4年目を迎えましたが、確実に変わってきています。13歳~16歳の選手を連れて海外遠征に行くと、レアルマドリードやバルセロナのユースと試合をしても、自分たちのスタイルで勝つときがあります。ビッグクラブと互角、あるいはそれ以上の戦いができていることを考えると、間違いなく変わってきています。これからも日本の育成年代の試合日程をうまく利用し、スケジュールが開いている期間を有効に使って海外遠征を行い、経験を積ませたいと思っています。

リケル:フットサルに関しては、サッカーとは歴史やスケールが違います。プレーヤー人口もぜんぜん違います。トップレベル、それこそ代表だけをみれば、ちょっとずつ世界の強豪国と競争できるようになってきています。ただ、アカデミーなどをみると、定期的なリーグ戦があるわけではなく、トップチームの公式戦があるときに前座で試合を行うなどしています。スペインのフットサルを取り巻く環境や全体的なプレーレベルと比べたら、正直まだまだです。しかし、確実に、少しずつよくなっています。日本人選手は技術力、コーディネーション能力ともに高く、みんなで協力する部分、チームプレーに関してはこれまでみたことがないぐらい素晴らしいです。そういった部分を生かして、もっとレベルアップしていってほしいです。

ホセ:そうですね。育成年代の日本人選手も、他国の同年代と比べて高い技術力を持つ選手が数多く見受けられます。一方で、何度も指摘するように、リーグ戦の日程がさらなる成長を妨げている一面があります。練習の成果を毎週末にフィードバックできるシステムになっていないのです。繰り返しになりますが、年間の試合数が少ない。シーズンの制度が、選手の育成を妨げていると感じています。

文化、教育制度、地域性などが個性に影響する

──日本という文化、教育制度のなかで存在するサッカー、フットサルの良い点や改善点を最後にお聞きしたいと思います。

リケル:みんなが規律をしっかり守ることで、試合に向けて協力しあって準備することができます。みんなが言われたことを守るので、あらゆることがスムーズに進みます。ただ、試合では約束事を守るだけではなく、さまざまな判断が必要です。対戦相手を倒し、勝利しなければならない。そのためには、駆け引き、競争する姿勢、闘う姿勢などが必要で、日本人選手にはこのあたりをもっと身につけてほしいです。

ホセ:サッカー、フットサルに限らず、バスケットボールやバレーボールも相手がいるスポーツです。相手の出方によっていろいろなことが変わってくるので、いつも自分たちが同じことをやり続けていれば勝てるスポーツではありません。複雑性のあるスポーツでは、判断力や対応力が大切です。

リケル:以前、中国で指導した経験を持つ外国籍監督の方が、こんなことを語っていました。中国のクラブは潤沢な資金があり、育成にも積極的に投資しています。それでも、なかなか優れた選手が出てこないし、代表も強くならない。対して、ウルグアイやクロアチアは国の規模は小さくても、いい選手が出てくるし、W杯で上位に進出する。どこに差があるのか考える必要があると語っていました。

ホセ:ウルグアイやクロアチアの選手に限らず、世界で戦うトップレベルの選手たちは勝負に勝つための術をよく知っています。賢く、貪欲に勝利を目指すことができる。やっぱり、ここでも判断力や対応力が違います。

リケル:前述の監督さんも、勝利を求める力、貪欲さ、プロの世界で生きていくんだという力が違うと指摘していました。スポーツではそういう強い意志が必要で、勝負の世界を勝ち抜くには、勝つ術を身につける必要があります。

ホセ:文化や教育制度に加えて、個人的には気候や風土など、地域性によっても変わってくるのかなと思っています。スペインでも南の地域の人々のほうが明るく、賢く勝とうという気質がある傾向があります。選手のキャラクター(個性)を知るためには、その国を幅広く知らないといけない。そういった意味で、より日本文化を知るために、一度相撲を観戦してみたいと思っています。試合時間が短く、すぐに決着がつくところにとても興味があります。

リケル:相撲はスペインでもテレビで放送されていますね。観戦すると、きっと得られるものがあると思います。日本のみなさんには、フットサルもぜひ観戦してほしいです。バルドラール浦安の試合は、おそらく相撲よりも安く観戦できます(笑)。私は3月にスペインへ帰国しますが、この2年間で日本という社会のなかで、仕事はもちろん、なにごとにも真剣に取り組む姿勢を学びました。すごくよい経験ができました。もう間もなく帰国するのが残念です。日本で知り合ったみなさんと会えなくなるのが寂しいです。

ホセ:せっかくお会いできたのに、とても残念です。ぜひ、連絡先を交換しましょう。そして、また必ずお会いしましょう。今日はありがとうございました。