津軽地方に数多く見られる大石武学流の造園を代表する「盛美園(せいびえん)」。京都の無隣庵や清風荘に並ぶ、明治時代の三名園の一つに数えられる国指定の名勝です。北条氏の家臣の血を引く大地主・清藤盛美が小幡亭樹宗匠を招き、明治35年より約9年の歳月を費やして作庭されました。3,600坪に及ぶ園内は、〈真〉と〈行〉を表す築山に松やカエデ、ツツジなどを添えて趣豊かに、そして〈草〉を表す平庭には見事なイチイの大刈り込みが。白砂で池を模した枯池と地泉が二段に構成された庭園内には80種1,300本もの木々が植えられ、四季折々に表情を変える情景の中に、和洋折衷の意匠が美しい「盛美館」がよく映えます。
庭園を鑑賞するために建てられた「盛美館」の1階は数寄屋造りの純和風。一部資料室として公開されており、縁側に腰を下ろしてじっくりと庭の風景を眺められます。現在は一般公開されていませんが、2階はルネッサンス調の洋館。異なる様式が上下で重なる建物は日本においては他に例がないと言われ、美しい外観を眺めるだけでも明治文化の面影を感じられます。また、ジブリ映画『借りぐらしのアリエッティ』に出てくる古い屋敷や庭の舞台イメージとなった場所ということもあり、映画の世界に想いを馳せて見学を楽しむ来園者の姿も多く見られるそうです。
併設する「御宝殿」は、清藤家の特別な位牌堂。大正6年に造営され、その形式は重層入母屋造り唐破風の廟建築。内陣には、鎌倉幕府執権・北条時頼の側室である唐糸御前を祀り、ご本尊に鎌倉時代の彫刻・金剛界大日如来を安置しています。堂内は金箔に覆われ、河面冬山が生涯をかけて作った三部五枚から成る蒔絵が見る者を圧倒します。中でも、桜に孔雀の意匠が施された蒔絵は日本最大であり、漆芸の最高峰として謳われています。