JR象潟駅に降りると、旗や楽器を持った特徴的な顔の子どもたちを描いた大きな版画が、ホームで迎えてくれます。木版画家・池田修三さんの「三色旗」という作品です。
修三さんは1922年、旧象潟町(現にかほ市)に生まれました。
東京高等師範学校(現筑波大学)芸能科に進みましたが、戦争のため学業途中で入隊。敗戦で繰り上げ卒業となり、帰郷して由利高校で6年、聖霊高校で3年美術教師を務めました。
油絵も描いていたそうですが、体質的に合わなかったのだそうです。趣味でもあった木版画に取り組み始めたのは、子どもの頃から作品を見ていた秋田の版画家・勝平得之(秋田市出身)の影響が大きかったのかもしれません。
修三さんは教師を辞め、木版画に専念するため33歳の時に上京しました。それから10年ほどは、子どもたちをテーマにモノクロ作品を制作していましたが、表現の幅を広げるため徐々に多色摺りに移行していきました。
多色摺りは色ごとに版を作り、摺り重ねていく技法です。下絵から彫って摺るまで、一連の工程には緻密な計算と手間、体力が必要となり、修三さんの作品は少なくても8版以上摺り重ねて色を表現しています。
修三さんの木版画に登場する子どもたちの表情には、独特の寂しげな雰囲気があります。これは、多色摺りの工程の中で一番最初に摺られる「ビリジアン」という薄い緑色によるものです。修三さんの木版画の特徴でもあるこの色が、可愛らしい表情の目元に陰を作り、どこか寂しげでセンチメンタルな世界を作りあげています。見る人を惹きつける魅力は、この独特な雰囲気にあるのかもしれません。