その昔、今の鹿角市のあたりに八郎太郎という、身の丈6尺あまりの力強い若者がおりました。ある日、八郎太郎は仲間と一緒に山奥へ入りました。炊事番だった八郎太郎は仲間の分のイワナを焼き始めましたが、あまりに美味しそうだったものですから、すべて平らげてしまいます。すると、あえぐほど喉が渇き始め、沢の水をがぶがぶと飲んだところ、仲間の分までイワナを食べてしまった罰なのでしょうか、いつの間にか八郎太郎は龍となっていたのでした。
泣きながら仲間と別れざるを得なかった八郎太郎は、沢の流れをせき止めて作った湖「十和田湖」に住むようになりました。しかし、南祖坊という修行僧と湖の主の座をかけて熾烈に争うも負けてしまいます。居場所を失った八郎太郎は西へと流れていくのでした。
さて、八郎太郎と南祖坊との戦いは幾日幾晩も続き、湖は荒れ、山は震えたといいます。実は十和田湖は数万年前の火山のカルデラ湖で、何度も噴火を続けており、平安時代にも一帯で噴火があったとされていますから、その大災害の言い伝えが物語の下地にあるのかもしれません。
地質的な楽しみ方もできる十和田湖ですが、自然豊かな湖畔は春夏秋冬訪れる人々を芳醇な風景で迎えてくれます。秋田県の鹿角市と小坂町の境にある発荷峠は絶好のビューポイントで、十和田湖の全貌と、湖を抜けて青森側の南八甲田の山々までを抑えることができます。