「TRAIN SUITE 四季島」を支える想い

Vol.182018/03/06

JR東日本運輸サービス 尾久事業所 総括主任 鈴木 直人の想い

新たな旅の始まりのために車両を清め、磨きあげる。
清掃のプロフェッショナルの技と心。

「TRAIN SUITE 四季島」が車庫へと帰還し、次の旅への準備に入るとき、清潔で快適な車両・車内を美しく甦らせるのが、「TRAIN SUITE 四季島」専任の清掃スタッフの仕事である。東京・尾久車両センターで、その任務にあたる鈴木直人は、常に自宅に大切なゲストを迎えるような気持ちで、日々の作業に臨んでいる――。

特別な車両には、特別な清掃を。

「TRAIN SUITE 四季島」の運行開始にあたり、まず車両清掃の専門スタッフが必要ということで、2016年12月、プロジェクトチームが立ち上がり、全社からスタッフを集めていきました。現在、1回の清掃で20名ほどの人員が作業にあたっております。
通常の車体洗浄作業では、自動洗浄装置などの機器も使用しますが、「TRAIN SUITE 四季島」の場合は、万が一にも、車体に傷をつけてしまわないように細心の注意を払い、一連の洗浄作業は、すべて手作業で行っております。黒く塗装してあるところは、ワックスをかけて、入念に磨きあげていきます。また、車体の下の車輪やモーターがついている台車も、長い旅路で汚れますので、ここも毎回、入念に清掃します。

試行錯誤しながら、工夫を重ねる。

「TRAIN SUITE 四季島」の車内は、東日本各地の伝統工芸とモダンデザインが融合した美術品のような特別な空間です。車両清掃というより、高級ホテルの客室清掃の仕事に近いところがあります。 車内清掃で、一番技術と経験が要求されるのは、お客さまが最初に乗車される5号車のラウンジです。テーブル、ピアノ、バーカウンターなどがあったり、床に段差がついていたり、空間としてさまざまな要素があり、細かい備品も多彩です。
また客室でも、四季島スイートの檜風呂などは、さすがに私もこれまで経験がありませんから、まず対象を見極め、どの方法が最適なのかを調べあげ、まさに試行錯誤の繰り返しでした。
現在では、スタッフがそれぞれの部屋専用に必要な清掃用具をまとめたバッグを用意し、効率的に作業を行えるようにしています。また「TRAIN SUITE 四季島」のために、自分なりに工夫して作った清掃用具や、ほかに100円ショップで見つけたブラシなども活用しています。値段はともかく、毛足が柔らかくて案外使い勝手がいいんです。現在も常に、作業に適した道具や方法がもっとないかを模索しています。

特別な体験のため、気持をこめて準備すること。

1泊2日コース(春〜秋)は、毎週日曜夕方に上野へ帰ってきます。そして、3泊4日コース(春〜秋)は、翌日の月曜午前に上野を出発します。時間的には、その間の清掃が一番大変で、ほぼ夜通しの作業になります。
また冬のコースでは朝6時半頃から最終確認がありますが、そこで下手に水を使って作業してしまうと、表面が凍ってしまって車両に悪影響を与えかねません。気温に注意し、あえて湿った布で拭くだけにするなど、臨機応変に作業を変更しています。
私は父親の故郷が福島で、子どもの頃から福島にはよく遊びに行った思い出がありました。東日本大震災の被害に対してなにか役にたてたらという思いがあり、この「TRAIN SUITE 四季島」が、福島・会津若松などへも運行されているのが、個人的にとても嬉しいです。福島にも注目が集まり、沿線の皆さまも、大変喜んでいることと思います。
清掃という仕事は、なにより前の人が使った痕跡を残さないことが第一とされます。もちろんそれは当然のことですが、清掃作業のなかで、お客さま一人ひとりの旅の感動体験が始まる大切な場所を、気持ちをこめて準備できれば、という思いで日々の作業に臨んでいます。
JR東日本運輸サービス 尾久事業所 総括主任
鈴木 直人
[ 文=鈴木伸子 撮影=的野弘路、他 ]