山田啓介は、工事のなかでもっとも難関とされる新幹線重層部の桁架設工事を担当する。橋桁はまず、工場で製作されたコンクリートブロックを現場において鋼線で繋げるところから始まる。一つの橋桁は11〜19個のブロックから成り、重さは最大590tにもおよぶ。橋桁の構造は一部の鋼製桁を除き、PC(プレストコンクリート)桁を採用している。この橋桁を台車にのせ、桁架設機のある場所まで移動する。架設当日は橋桁を吊り上げ、走行ガーダーを前に引き抜き、空いたところで橋脚の上に設置する。これを繰り返し、高架橋を構築していく。桁架設機自体の重量が1800t、橋げたは最大590t。不測の事態が起きれば、翌日、新幹線の営業ができないかもしれない。東京と東北、上信越を結ぶ最重要路線である東北新幹線の直上で行う作業だけに、極度の緊張を強いられる。「本日の作業は問題なく終了しました。」そう指令室に報告する度に山田はほっと胸をなでおろす。
作業が可能なのは終電後の1時から始発前の4時半というわずかな時間しかない。走行ガーダーは橋桁の長さによるが、約35〜100分かけて移動し、その後、1分間に約18cmずつゆっくりと下ろしていく。無事に橋桁が橋脚の受ける位置に収まると、地震が発生しても高架橋が崩壊しないよう確実に固定する。その後、2〜3日かけて桁架設機を次の橋脚へ移動し、新たな架設の準備を行う。このように一つの橋桁をかけるのに約40日を要する。桁架設機は全長が200mにもおよぶため、少しの回転でも端側のぶれは数十cm単位になる。このため桁架設機の操作や位置の把握などはコンピュータでの集中管理により1mm単位で行っているが、架設機のたわみやズレなどを目視で確認したり、架設機のきしみ音や振動などを耳や手で確認して、無理な力がかかっていないか、最後は人間の感覚で確認していく。
「工事を進めるにあたってもっとも気を付けていることは、お客さまにご迷惑をおかけすることなく、いつも通り安心して電車をご利用いただくこと」と山田は言う。その夜の作業が時間内に確実に終わるかを確認し、万が一トラブルが発生しても始発電車が動き出す前にその対処を終え、何事も無かったかのように電車が動き出せる状況をつねに確保する。事前に練習できるものは練習し、リスクを最小限まで減らしておく。それでも新幹線の直上での作業であるため、万が一のトラブルの際の影響は計り知れない。そのため、桁架設や架設機の移動などの大きな作業は、本社や設計部門など多くの土木技術者が集まり、施工計画を何度も検討するほか、プロジェクトマネージャーとして社内外の関係者と綿密に連絡をとり、安全を確保したうえで工事を行う。また、工事の着手時、途中、終了時など、作業の進捗状況や、予定通り始発列車を走らせられるかなど、新幹線や在来線の指令室と連絡を取り合い、確認している。