婦人科検診で再検査が必要といわれたら…

子宮頸部の上皮細胞にHPV(ヒトパピローマウィルス)が感染すると、その細胞に変化が生じ子宮頸部上皮内病変(CIN)が形成されます。CINは変化の程度により、軽度異形成(CINⅠ)・中等度異形成(CINⅡ)・高度異形成~上皮内がん(CINⅢ)の3段階に分類されます。

<子宮頸部上皮内病変 CIN>

CINⅠ 軽度異形成
CINⅡ 中等度異形成
CINⅢ 高度異形成~上皮内がん

HPVは性交渉で生じた粘膜の傷から子宮頸部の細胞に感染します。性交渉の経験があればほとんどの女性が一生のうち一度はHPVに感染するといわれています。HPVが感染した異型細胞は免疫機構により異物として認識されほとんどが排除されます。子宮頸部に感染するHPVには100以上の型があるといわれています。その中で以下に示すハイリスク型に感染した細胞が免疫機構をすりぬけ5~10数年と長期間その感染が持続(持続感染といいます)すると、そのうちの僅かが子宮頸がんへと進展することがあります。そして、子宮頸部上皮内病変の進行程度は免疫状態を左右する背景(加齢、さまざまな環境因子や遺伝的因子)により異なります。特に“喫煙”は子宮頸がんとの関連性が統計学的に証明されています。

HPVハイリスク型

16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 68, 73, 82
(このうち上記8つの型は特にハイリスクとされています)

HPVが感染すると子宮頸部上皮細胞に細胞異型が生じはじめます。この肉眼ではわからない“顕微鏡の世界での変化”を子宮がん検診で「要再検」と指摘されたり、何らかの症状を自覚して婦人科を受診した際にたまたま行った子宮頸部細胞診で「異常な結果」として指摘されるのです。その際に行うべき検査は、コルポスコピ-検査(子宮頸部を拡大鏡で観察し異常所見を認める箇所を生検します)です。組織診の結果、子宮頸部高度異形成や上皮内がん以上の病理組織診断の場合は治療を必要とします。また、当科では子宮頸部中等度異形成でも長期間病変が持続している(1.5~2年を越える)場合にも治療をお勧めしております。

治療法としては、3つの手術療法があります。

治癒率 手術時間 入院期間 妊孕性
(1)Laser蒸散術 85~90% 10~15分 1泊2日 温存
(2)円錐切除術 95% 30分 4泊5日 温存
(3)子宮全摘術 99% 90分 約10日間 欠失

(1)Laser蒸散術は、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)を用いて子宮頸部のビラン形成部を約3mmの深さで焼灼・蒸散させる手術です。ビランの全貌がはっきりしない患者さまの場合はこの治療法は適しません。手術時間は10~15分程度と短時間の手術ですが、麻酔科医師による麻酔管理下で行います。そのため1泊2日の入院を必要とします。治癒率(病気が治る確率)は一般的に85~90%です。つまり10~15%の再発の可能性があります。因みに当科での再発率は6.7%(平成23年7月~30年12月)で、当科では90%以上の患者さまが治癒しております。
この手術では病理組織診断に提出する摘出組織がないため、レーザー蒸散した部位に存在していた病変の確定はできません。

(2)円錐切除術は、ビラン形成部を底面とした円錐形状に子宮頸部を切除する手術です。麻酔科管理の下で行い手術時間は約30分程度です。手術方法は施設によって異なります。従来、当科では切除断端の病変残存の有無を病理組織学的に確実に判定するために、膣粘膜および頸管内膜切断時にはcold knife(メス)を用い、他部位の切断には高周波電気メスを用いておりました。平成25年6月からは超音波振動メス(ハーモニック・スカルペル)を使用しており、周術期出血を大きく減らすことができ、また組織の熱変性をさらに抑えることができることで従来に比しより正確な診断を得ることができるようになりました。さらに、私たちは子宮頚管狭窄という術後併発症の発生頻度を低くする独自の工夫をしています(後述)。手術創部の安静のため、4泊5日の入院を必要とします。治癒率は96%です。

(3)子宮全摘術は、病変のある子宮頸部を含め子宮をすべて摘出する手術です。開腹手術で行うか腹腔鏡手術で行うかは患者さまの病状により決定します。また、入院期間も約7~10日間と異なります。治癒率は99%(ほぼ100%)です。

患者さまが治療法を選択される際に“仕事の性質上お休みがどの程度可能か?ご家族のご都合は?”など患者さまそれぞれのライフスタイルが大きく影響します。しかし治療法を選択する上での最大のポイントは、患者さまが“妊孕性”についてどのようにお考えになっているか?ということ。今後妊娠の可能性を残すかどうか、つまり子宮を残す治療法を選ばれるか否か?ということです。前述した(1)・(2)の手術療法であれば妊孕性が保たれますが、(3)では子宮をすべて摘出してしまうために以後妊娠することができなくなってしまいます。

子宮頚部のイメージ Laser蒸散術のイメージ 円錐切除術のイメージ

それぞれの手術療法の内容について比較しましたが、それぞれの手術療法に伴う偶発合併症についてご説明します。

(1)Laser蒸散術に伴う併発症としては術後創出血があります。
通常は、Laserで蒸散した手術創からの微小な出血は一時的に圧迫することで止血することができます。しかし、約70~80人に1人の割合で通常の方法では止血困難な術後出血を認めることがあります。この場合入院期間の延長を必要とすることもあります。

(2)円錐切除術の術後併発症としては、術後創出血と子宮頸管狭窄(閉塞)があります。
円錐切除術では、入院期間の延長や退院後再入院を必要とする術後創出血が5~6%の頻度で認められます。その中には、必要に応じ麻酔科管理の下で止血術を行う場合もあります。
もう1つの術後併発症である子宮頸管狭窄(または閉塞)は、術後に形成される創部癒着により発生します。月経不順・授乳中・閉経後の患者さまに発生しやすく4~11%の頻度で認められると報告されています。これはSturmdorf縫合という手術操作を行った場合に起こりやすいと言われています。私たちはこの手術方法とは異なる“無結紮切り離し法”を行っており、子宮頸管狭窄(閉塞)の併発を2~3%の頻度に抑えることができました。
手術後の妊娠経過中に発症する早産(切迫早産)も無視できない偶発症です。その頻度は15~20%と言われておりますが、円錐切除術が妊孕能に直接影響を与えるか否かについては一定の見解は得られておりません。子宮頸管狭窄などの頸管の構造的な変化や頸管腺減少に伴う頸管粘液の分泌低下などの機能的な変化が妊孕能低下につながる可能性が指摘されています。

(3)子宮全摘術は、開腹手術で行うか腹腔鏡手術で行うかにより術中術後の偶発合併症の内容も大きく変わります。この治療法が最適と思われる場合に詳細をお話しいたします。

※病変の再燃・再発について・・・

Laser蒸散術後または円錐切除術後の病変の再燃・再発は、その多くが手術後6ヵ月~1年以内に起こります。私たちはその期間の微妙な変化を見逃さず早期に対応していく必要があります。再燃・再発した場合には、まず病変の進行程度をより正確に評価し、患者さまとご家族様のご希望を十分に考慮させていただいた上で、患者さまにとって最適な治療法が選択できるようにご相談させていただきます。

HPV(ヒトパピローマウィルス)は世の中に蔓延しており、これに感染していることは珍しいことではありません。HPVが感染した子宮頸部上皮細胞の微妙な変化をとらえ、病変が進行することで患者さまの妊孕性が失われてしまうことのないよう早期に対応していくことが私たちの使命と考えています。

皆様も“年に1度の婦人科検診”をお心がけくださいますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

そして、御心配事がありましたら何なりとご相談ください。

JR東京総合病院 産婦人科 北條 智